第34話 不神(フシン)

 自室でタバコを吹かしているビクニに連絡が入る。

「ビクニさま、ユキさんが目覚めました」

「そう…検査に問題が無ければ、部屋へ戻してもいいわ…私は明日、顔を見に行く…そうね…心配ないでしょ…元々、妖魔の資質が強い子だからね…あの溶液とは相性がいいはずよ…ある意味では母親の羊水みたいなものでしょうしね」


 灰皿にギュッとタバコを押し付けて消す。

 長い髪を束ねていた髪留めを無造作に解いて、シャワーを浴びる。

(伸びもしなければ…短く切ってもすぐに元の長さに戻る…慣れないものね、数百年も見ているはずなのに…)


 その夜…

ミコト』の元にロヨラ獅子座が訪ねて来た。

「お元気そうで…ロヨラ獅子座

ミコト』がさして興味無さそうに座敷に座ったまま声を掛ける。

「聞きたいことがある」

「なんでしょう?」

「最後のデカンとは…なんだ?」

「フフ…あなたには関係ない存在ですよ」

「関係ない…だから、あの日、デカンを始末したのか?」

 ロヨラ獅子座の瞳に怒りが宿った。

「そうじゃないよロヨラ獅子座

 部屋の襖を開けて入ってきたのはジュリアン双子座

「生きていたのか…ジュリアン双子座

「あぁ…まぁ…最初から死んではいないんだけどね…は、他はともかく」

「知っていたということか?」

 ジュリアン双子座を見て、少し和らいだ表情が再び怒りに満ちてくる。

「知っていたさ、ヌーノ山羊座マンショ牡羊座もね…彼らは自分で選んだんだ…僕達は、違う路を選択しただけさ」

「どういうことだ?」

「私より、2人で話したほうがいいようね…」

ミコト』がスッと立ち上がり奥へ下った。


ロヨラ獅子座…最後のデカンはヴァリニャーノ射手座じゃない」

「……13番目がいるということか」

「彼は、すでに日本に…此処にいる」

「オマエは、そのために?」

「違う…僕達は、妖魔の強化に携わっているだけ…すでにデカンは…だからヌーノ山羊座マンショ牡羊座は、あの場を死に場所に選んだ」

ロヨラ獅子座、最後のデカンは…危険だ、アレは僕らデカンとは根本的に存在の価値が違うんだ…駆逐型あるいは淘汰型というか…アグスチーノ天秤座、いや今のはコピーだけど、アレの意思に従うだけの殺戮兵器」

アグスチーノ天秤座…廃棄してなかったのか」

「完全に自我のない演算機としての機能のみ移植された紛い物が今のアグスチーノ天秤座さ」

「『ミコト』の意思に従うだけの…か」

ロヨラ獅子座…その身体、僕達に預けてくれないか?」

「どういうことだ?」

「オマエがココに来た理由は、ヴァリニャーノ射手座とのケリをつけるためだろ、今更、そんなことに拘るなら、その命を僕達にくれよ」

「ふん…」

「どうせ捨て場所を探してたんだろ、僕達もさ…」

「最後のデカンを殺せと?」

「あぁ…13番目のデカン『アスクレーピオスへびつかい座』を」

「それこそヴァリニャーノ射手座に頼んだらどうだ?」

「彼なら、勝手に動くさ、それに彼には別の役目もあるのさ」

「そこで、俺を『アスクレーピオスへびつかい座』にぶつければヴァリニャーノ射手座の邪魔にもならず、一挙両得ってことか?」

「違うとは言わない、ヴァリニャーノを殺したければ、その後で好きにすればいい、それに今のままじゃ、どちらにも勝てないよ」

「なに?」

 ロヨラ獅子座の表情が変わる。

「絶対に勝てない…『アスクレーピオスへびつかい座』はもちろん、ヴァリニャーノ射手座にも勝てない、力はキミの方が上だと思うよ、でもそれだけだ」

 ギリッと歯ぎしりをしてジュリアン双子座を睨む。

「キミも解っているから…死に場所をヴァリニャーノ射手座に求めたんじゃないのか?」

「……俺は、オマエに何をされる?」

「寿命と引き換えに、妖魔の力を与えてやるよ」

 ロヨラは自嘲気味に笑って、握っていた拳を緩めた。

「オマエはどうなる?」

「僕達は『ミコト』が手を下すまでも無く…自滅する」

「自滅?」

「あぁ…僕達は2つの人格を身体に宿したデカン、双子の半身を無理やりくっ付けただけの不安定なデカンなのさ、思考スピードが2倍になっただけ…脳が付いていけないんだ」

「最後の仕事…引き受けた」

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