第35話 鬼凛(キリン)

 ヴァリニャーノ射手座は遺跡の地下にいた。

 何日か彷徨った地下遺跡、その奥に巧妙に隠されていたモノ…

「コレか…」

ミコト』から聞いた、彼女が『ユニット』と呼んでいたモノ。

 それが今、自分の手の内にある。

(コレについては何も聞かされていない…知っているのは『ミコト』とジュリアン双子座くらいか…)

 持ってきたケースに入れて、ヴァリニャーノ射手座は遺跡を後にした。

 カチッと彼がリモコンのボタンを押すとズズンッと低い音がして地面が揺れた。

 遺跡は崩壊した…。

「観光地候補が一つ…地盤沈下で無くなったということさ…」

 ヴァリニャーノ射手座がヘラッと笑って、胸ポケットから高カロリー食を取り出し食べる。

(クソ甘い…)


『ユニット』が『ミコト』の元に届けられたのは2日後の夜だった。

ロヨラ獅子座、始めようか…」

 ジュリアン天秤座ロヨラ獅子座に『ユニット』を

 差し出した。

「コレは?」

「生体兵器…妖戒がコチラで造った唯一の兵器、彼らが知的生命体だという確証でもある…」

「妖戒が? ソレが造られたのは?」

「遥か前さ…妖戒は、人と交配することで凶暴化したとも考えられるんだ、元々はかなりの文明を持っていたんじゃないかな…」

「妖魔化はバカになるってことか?」

「いや…知性より本能が勝つだけだよ…本能が満たされれば、その知性は、きっとそのままか、あるいは…いずれにしても、妖魔は早期に駆逐しないとならない、人にとって危険な存在になる可能性が高いんだ」

「つまり…今まで狩ってきた妖魔は、本能で動く赤ん坊同然ということなのか?」

「幼生体とでも言うべきかな…妖魔は、進化し続けるんだ、昔…いたんだろうね、この『ユニット』も、そんな妖魔が造ったのかもしれない…」

「完全体になった妖魔…が?」

「あるいは…だよ…そんな妖魔、今まで見たことがないだろ? 何を以て完全体と言うか…その定義すら曖昧だ…この『ユニット』が何と戦うために造られたのか?妖戒達は、そもそも、何の為に文明の遅れた、この地に来て交配したのか?彼らは、この地に様々な干渉をしている。様々な文明を残している。その中で、唯一兵器と呼べるのは、この『ユニット』だけなのさ」

「妖戒は、何かと戦っていた?」

「かもね…もしかして妖魔かもしれないし…オス型がメス型をってことかもしれない…飛躍すれば、同じようにココにやってきたナニカかもしれない」

「この『ユニット』を俺に?」

「そうだ…アスクレーピオスへびつかい座は、イレギュラーだ…妖魔なんかより遥かに性質が悪い…アレは妖魔を食うために、自分で妖魔を増やしていく…」

「どういうことだ?」


ミコト』は死体に妖魔遺伝子を使い、メス型のコアを埋め込んだ、ほんの些細な好奇心だったと思う…死体は自我を失ったままコアの記憶のみを引き継ぎ、人から本能を引き継いだ。

 死体に残された本能…それは怨念だけだった。

 殺されたという怨念がコアに憑りついたと言っていい。

 アスクレーピオスへびつかい座は、選別された人間を妖魔化させるために妖魔のコアを体内に保持している。

 喰った妖魔のコアを体内で保存し植え付ける。


「最後のデカンたる由縁さ」

「俺達はそのための実験体…だったんだよな」

「あぁ…デカンというプロジェクトは、人類の淘汰と選別、そして進化を『ミコト』独りで行うための準備にすぎないんだ」


ミコト』とは?

「このNOAの創始者にして…遥か昔から生き続ける妖魔…かもしれない」

「妖魔? 完全体となった…妖魔ってことか?」

「さぁね…でもそう考えないと納得できないことが多すぎる、この『ユニット』も本来はアスクレーピオスへびつかい座のためにヴァリニャーノ射手座に探させていたものさ」

メスキータ魚座から引き継いだ仕事ってことか…」

ヴァリニャーノ射手座が、大人しく『ユニット』を引き渡すとは思わなかったけどね…正直、彼が何を考えているか…僕達には解らない…」

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