第29話 神楠(ジンクス)

「まっ、カイトのおかげで相手が固いということは解ったわ」

 キリコの言葉には、このリボルバーならぶち抜けるという自信が溢れている。

「相手がね…刀向きの相手じゃ無かったんだよ…きっと」

 ケンが慰める様にフォローする。

「村雨に霊力を吸われているのよ…だから刀が重い」

「吸われる?」

「そう…村雨は霊力を吸い取りながら切れ味を増していく、扱う人間の霊力が高ければ高いほど切れ味も強度も高まる」

「カイトじゃ力不足ってこと? あっ…霊力不足か?」

「村雨を扱うには、村雨と霊力のバランスを取らなければならないの」

「バランス?」

「カイトの霊力は充分なはず、足りないのは制御する力…」

「なんだ、ユキと一緒じゃないか」

 ケンがユキの方をチラッと見る。

 ユキは夜叉丸と対峙している。

 気を抜けば夜叉丸は妖魔に襲い掛かる。

 そして…貪り喰うだろう。


 GUN!!…GUN!!…

 海岸に銃声が響く

 ケンとビクニがキリコの方に視線を戻す。

 距離はおよそ20mほど、キリコの放った弾丸は確実に妖魔の身体に当たっている。

 しかし…妖魔は数秒間、立ち止まるものの致命傷には至っていないようだ。

(クソッ…修復が早い…)

 キリコが舌打ちする。

 貫通力の高いホローポイント弾を選択したのが間違いだった。

(ソフトポイントなら…もう少しはマシなダメージを与えられのに)


 妖魔との距離が徐々に縮まる。


「ヤバイんじゃないか?」

 ケンがビクニの方をチラリと見る。

「妖魔との戦いの経験値が圧倒的に不足しているうえに…武器を扱えないんじゃね…困った子達ね」


 Fuuuuuu…

 静かに夜叉丸が吠えた。

 ケンとビクニがユキに視線を戻す。

「ユキ…」

 ビクニの表情が少し強張った。


 ユキの瞳は赤く染まり、夜叉丸と同じ光を宿している。

「これってどういう…」

 ケンがビクニに尋ねる。

「まさか…同化しているの?」


 ユキの呼吸と夜叉丸の呼吸が完全にシンクロしている。

「マズイわ、カイト!! 動けるわね」

 妖魔の後方でヨロヨロと立ち上がったカイトにビクニが訪ねる。

 無言で村雨を片手で軽く振る。

「よし…キリコ、1か所に集中して撃ち続けなさい、カイトは修復前の弾痕を狙う、いいわね」


 キリコが妖魔の胸に集中して弾丸を浴びせる、弾を込め直す間はカイトが弾痕に村雨を突き刺す。

(解ってきたぜ…村雨の使い方が…クセが…)


「ユキ…おい、ビクニ…ユキと夜叉丸が…」

 ケンが怯える様にビクニに話しかける。

「使役できないんじゃなかった…ユキは、同化して…でも、まだダメよ!!」

 ビクニが珍しくうろたえているように思えた。


「あぁぁあぁぁ…うわぁぁぁぁぁぁぁーーーー」

 ユキが叫ぶと、夜叉丸が呼応するように吠える。

 ユキの目は真っ赤に染まっている。

 夜叉丸が宙に飛び、ユキは両手を広げた。

 夜叉丸がユキを包むように2人のシルエットが重なる。

神化しんか…白虎、僕に力を貸せ…」

 ユキがボソリと呟いた。

 ユキの身体がボンヤリとした光に包まれる。


「ユキ…あなた…いつ獣神化なんて知ったの?」

 ビクニは、言葉には喜び、その表情には憎しみ…相反する感情を抑えられずにいた。

「どうなるんだよ…ビクニ…」

「自らの身体に霊獣を宿す…妖魔化とは、まるで違う変異を遂げる…はずよ…私も見るの初めてなの」


 ユキの身体は光の中で、変貌を遂げていた。

 牙が生え…白い長い毛が全身を覆う…真っ赤な目…

 間違いなく、夜叉丸の姿と特徴がユキの身体に反映されている。

「あれが…同化か…」

 ケンが呟き…身震いした。

「撮ってるわよね…ケン」

「あぁ…CGみてぇ…」

「残念だけどリアルよ」


 シュッと光がユキの身体に吸い込まれるように消え失せる。

 そこには…白い尾を生やした、獣人が立っていた。

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