第47話 雪名(セツナ)

「アァァあ…さぁぁあアアあ…クーらがぁ」

 手足を捥がれ、床で転がるだけのアスクレーピオスへびつかい座、頭をユキが足で踏みつけているため、身体だけがモゾモゾ蠢いている。

 グググッとユキが足に体重を掛けると、アスクレーピオスへびつかい座の身体のモゾモゾが早くなる。

「ガァ…ガァ…ガガァアガァ」

 呻く、その口から無数の触手が吐き出される。

「そんなもんか…最後のデカン? わざわざ生き返って…そんなもんかよ、イクト」

 踏みつける足、さらに力が込められる。

「なぁ!! そんなもんなのかよ!!」

 ユキが太刀の切っ先をアスクレーピオスへびつかい座の首にヒタッと当てる…

「じゃあな…」

 小さく呟いて太刀をヒュンッと振り抜く、踏んでいた足をどけて、振り抜いた太刀をイクトの側頭部にズズッと突き刺し霊気を送る。

 髪がズルッと皮ごと剥がれ…耳や鼻、肉の柔らかい部分からグズグズと崩れ出す。

「ク…カカッカカカァ…」

 喉に溜まった空気が漏れているのか、あるいは最後の呻きなのか、イクトの口から音が漏れた。

 頭部が腐臭を放ち始めると太刀を引き抜いて胴体に視線を移す。

「さて…アスクレーピオスへびつかい座…そろそろ出て来いよ、言葉が解らないでもないのだろう…あんな馬鹿の記憶でも学習しているんだから」


「なに?」

 カイトが眉をひそめる。

「驚くことじゃないでしょ…コアはまだ生きていたって」

 ビクニが何を今さらといった顔でカイトを見る。


「それとも、こうしないと出てく来れないか!!」

 ユキが太刀を力任せにアスクレーピオスへびつかい座の胸に突き刺す。

「引きずり出すぞ…お前等、妖魔は全て駆逐してやる!!」

 深く息を吸い、一気に霊気を太刀へ込める。

 太刀が不気味に脈打ち、ユキの両掌から血が溢れ零れる。

「苦しいだろ…出て来いよ」

 ユキがニタリと笑う。

 アスクレーピオスへびつかい座の胴体がブルブルと震え、その腹を食い破るように脳髄と神経に蜘蛛のような足を持つ『コア』が飛び出した。

「GYAaaaaー!!」

 口も無いような生き物が、どこから吠えるのか、解らないが苦痛とも思える声をあげ、床にベシャッと着地する。

 尻尾のような神経を振り回し、ユキを威嚇するかのような動きを見せる。


「これがコア?」

 キリコが呟く

「そう…成長しきった『コア』よ」

 コアを見たことがあるものは少ない。

 カイトもキリコも『コア』を見るのは初めてだ。


「ラスボスの最終形態ってことだよね」

 ケンがペロッと舌で唇を舐める。

「エンディングが近いってか?」

 カイトが村雨に手を掛ける。

 その柄頭をキリコがグッと押さえる。

「何をする?」

「あの子が自分で決着をつけるんでしょ…そうでしょビクニ?」

「えぇ、そうね…私達は、すでに蚊帳の外よ」

「そうかい…」

 カイトが村雨から手を放す。

「まぁ…エンドロールの後を心配しようぜ」

 ケンがユキを指さす。


(そう…本当の問題は、ユキの神化なのよね…)

 ビクニの表情が険しくなる。


「来いよ…身体が欲しいだろ?」

 ユキが、おおよそ言葉が通じるとは思えない姿の『コア』を挑発する。

『コア』は節のある6本の足をカキカキと動かしユキとの間合いを少しづつ詰めているようだ。

 ピタッと『コア』の動きが止まる。

(そう…そこが僕の間合いギリギリだ…やはり知性はある…それとも本能か?)

 ユキの構えがピンッと固定される。

 周囲の空気が固定されるかのような緊張感。


 成長した『コア』が肉体を乗っ取るには時間が必要になる。

 宿主に寄生しながら、ゆっくりと長い時間を掛けて外側から同化しなければならないからだ。

 つまり肉体を失った時点で、アスクレーピオスへびつかい座の『コア』が、この場を乗り切る術はない。

 ゆえにユキの霊気で押し出されるまで、イクトの肉体に籠ったのだ。


 ユキの前で戦意を剥き出しにするのは…おそらく…

『コア』に宿った『イクト』の恨み。


(もしくは、誇りか…)


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