第48話 縁怒(エンド)
どのくらいの時間、静寂が支配していたのだろうか…
時間の流れは平等じゃない。
誰かには長く…別の誰かには、あまりに早い…
彼らにはどうだったのだろう?
少なくてもイクトとユキは、その時間がとても長く感じられていた。
視えない思念が繋がるような…思い出を共有しているかのような、そんな時間だった。
ロクな思い出はないのだろうけど…
『コア』の尻尾がユラユラと揺れ出した。
タイミングを計るように…メトロノームのように正確に左右に揺れる。
その正確な揺れが揺らいだ瞬間に…
『コア』が大きく跳ねた!!
ユキの眼前にその醜悪な姿が一瞬で迫る。
「じゃあな…イクト」
シャンッ!!
静寂のロビーに鍔鳴りが響く。
ユキの横を真っ二つに切り裂かれた『コア』がすり抜け…ロビーに落ちる。
自分の後方でグズグズと崩れる『コア』を見ることも無くユキは割れたガラスを潜り外へ歩き出した。
「ユキ」
声を掛けようとしてビクニは、首を横に振り言葉を飲みこんだ。
(アナタ…大丈夫?)
それとも
(よくやった)
なんて言葉を続ければいいか…判断に迷ったからだ。
しばらく月を見上げていたユキ、その背中を見ているビクニ達。
しばらくの静寂と沈黙、ロビーに救護班や兵士達がワラワラと雪崩れ込む。
その状況からも置いて行かれたようにユキは静かに月を眺めていた。
ロビーの死傷者が運ばれ、処理班がロビーの修復に取り掛かる頃、ユキは膝からガクンと電池が切れた玩具のように崩れ、両手を地に着けた。
「ガァ…アァァ…」
低く唸るような声を発してガクガクと大きく震えている。
「ユキ!!」
カイトとケンが、ほぼ同時に外に出て、ビクニとキリコが続いた。
ユキの腰から生えていた尻尾がスーッと消え、月明かりに溶けるように羽衣も消えていく。
靄のようにユキの周囲を包み、夜叉丸が姿を現す。
ジロッとビクニを睨むように一度見据え、フッと姿を消す。
すぐにキリコが救護班を呼び、地面に倒れ込んだユキを運んでいった。
「アレが神化か…」
ケンが大きくため息を吐いた。
「えぇ…」
ビクニは考えていた。
夜叉丸と同化する前のユキは明らかに怯えていた。
どのタイミングで性格が豹変したのか?
ユキの本能…いや本性が神化後のソレだとすれば、それを抑えている表層は、あまりに弱くはないか?
あんな性格で、あの本性を抑えられるものなのだろうか?
夜叉丸の目、あきらかに私を嫌悪していた。
夜叉丸の本能がユキに移ったのか?
感染するように?
いや違う…霊獣は荒ぶる神、本来、人間が抑えられるようなものじゃない。
霊力で無理やり抑えつけなければ、首輪が無ければ扱えやしない。
だからこそ霊獣は、主が子供の頃から幼体として傍に置かせるのだ。
それでは足りないので…幼体に戻す際には……
「……クニ…おい、ビクニ」
カイトが上の空だったビクニに声を掛けていた。
「あぁ…なに?」
「アレ…」
ARKの外、正門では警備が押さえてはいるが警察が詰め寄っていた。
「そうね…今日は寝ましょう、これ以上、出来ることはないわ」
ビクニは部屋に戻ってシャワーを浴びていた。
細くモデルのような肢体、水をロクに拭きもせずにバスローブを羽織り、ソファでタバコを吹かす。
「
所詮…母親か…
我が子に甘いというわけね。
私には縁の無いこと…解り得ないこと…
霊獣を幼体に戻すには、主がその身を捧げなければならない。
主従関係の破棄は、その命を贄に差し出さなければならない。
霊獣が一番、喰いたいモノ…それは、自分の主なのだから…
摂り込まれ、その内から霊獣の本能を抑える役目を担うのだ。
夜叉丸のように肉親が次の主になることは極めて珍しい。
それが凶と出るか、吉と出るかは誰にもわからない。
「
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