第49話 彩都(サイト)

「まずはARKから行こうかな~」

 相良は新幹線から降りると大きく伸びをして肘をコキッと鳴らす。

「駅弁、美味しいですね」

「そうかい…まぁ気に入ったから3個食ったんだろうけどさ」

「もう1個くらい食べれましたけどね~降りなきゃならないですからね~夕ご飯どうします? 湯葉食べてみたいですね」

「花田くんさ、修学旅行どこだった?」

「日光、奈良…東京…大阪、大学の卒業旅行は沖縄でした」

「京都に縁が無かったんだな」

「そうです」

「だから、そのテンションなんだな…納得」

「芸者の恰好で記念撮影してみたいです」

「うん…止めないけどさ」

「やりましょうよ相良さん、新撰組のコスプレして」

「うん…嫌だよ…俺」

「ど~して?」

「尊敬できる偉人が坂本竜馬だから」

「ベタですね…意外というか…」

「そうかい?」

「そうですよ、坂本竜馬って…相良さんのイメージじゃないな~」

 花田は、その後しばらく無口になった。

 じゃあ、相良はどんな偉人を尊敬していたら納得できるのか?

 自問自答していたのだが、残念なことに花田は歴史には疎かったので、サッパリ思いつかなかったのである。

 ちなみに相良はべつに坂本竜馬を尊敬などしていない。

 たまたま、土産物屋に竜馬のイラストが入ったTシャツが目に入っただけだ。

 彼は、特に問題が無い限りは、話をはぐらかす癖がある。

 自分の本音など、滅多に口にしないのだ。


「相良さん、やっぱり湯葉にしましょう、生湯葉」

 花田が再び口を開いたとき、タクシーはARKの正門に着いていた。

「キミ…いつからソレ考えてたの?」

「相良さんが、坂本竜馬で~とか考えてたんですけど、どこからだろ? 今は生湯葉の事を考えてます」

「あ~、竜馬ね…気にしなくていいんじゃないかな」

「そうなんですか」

「うん、たぶん、明日同じこと聞かれたら、近藤勇って答えそうだからさ」

「やっぱりコスプレしたいんじゃないですか~」

「そしたら…高杉晋作に憧れることにするよ…さて、お仕事するかな~」

 タクシーを降りて、また大きく伸びをする。

「宿舎ですか? 本社じゃなくて?」

 花田が不思議そうな顔をする。

「あぁ、昨夜さロビーで爆発事故があったんだそうだ」

「爆発ですか?」

「あぁ…ロビーで…」

「ロビーで」

「何してたんだろうね」

 ニタッと相良の口元が緩む。

「アレじゃないですか、バーベキューとか」

「ロビー内で?」

「室内バーベキュー」

「聞いたことないけどね…食堂あるだろうしさ」

「ガス爆発でしょ」

「なんでガス?」

「爆発ってガスじゃないんですか?」

「早口言葉じゃないんだよ」

「ガス、ガス爆発みたいな」

「ガスばっかだね…」


 相良が守衛室で面会の手続きを進めている。

 花田は早口言葉を繰り返している。

「ガスガスバブハツ」

「ガスバクブツハツ」

「アレ? なんか変だな…あっバスだ、最初はバスだった」

「バス、バスバツバス」


「行くよ花田くん」

「はい」

「相良さん、バスでしたよ~最初は」

「何言ってんだキミ?」


 ロビーは、すでにガラスがはめ込まれ、昨夜、爆発事故があったようには思えないほどキレイになっている。

「ココで爆発ね…」

「相良さん…何か変な臭いしませんか?」

「爆発事故の後だからね」

「やっぱりバーベキューじゃないのかな~」

「何の肉、焼いてたんだろうね?」

「アレじゃないですか?羊とか山羊とか…牛じゃないと思いますよ」

クンクンと鼻を鳴らして残り香から肉の種類を推測しようとする花田。

 ロビーで待つこと数分

「お待たせしました」

 現れたのは長身の美人

「お忙しいトコ申し訳ないですね」

「いえ、事故の後ですから警察の方が来られるのは当然かと思いますよ、どうぞ気になさらず」

 黒いパンツスーツの胸ポケットからジバンシーの名刺入れを出し、挨拶する。

「申し遅れました、当宿舎の管理を任されております『刈野 メイ』と申します。

 がニコッと笑って名刺を差し出した。

「丁寧にすいませんね…」

(仮のメイ『かりのなまえ』か…挑発的だな随分と…)

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