第50話 狐苦狸(コクリ)
「昨夜は、何の爆発騒ぎだったんですか?」
「あぁ…お恥ずかしい話ですが、ロビーでパーティを開いておりまして…悪ふざけした職員がプロパンに引火させてしまったんです」
「パーティ?」
「はい、入所、退所のパーティでしたが、なにか?」
「食堂じゃなくて、ココで?」
「はい、月夜が綺麗に見えますから、時折、ココで開いてました」
「そうですか」
相良が立ち上がり、ロビーから外の景色を眺める。
「広い庭ですね~さすがというか…いやはや、さすが大企業というか財団というか…」
「そうですか、世界中から、医療の為に故郷を離れて、この京都へ移住してもらうのです、その志に応えたいとの思いからですわ」
席に戻った相良がキョロキョロと辺りを見回す。
「なにか?」
「いや…灰皿…ありますか?」
「禁煙なもので、学生の寄宿舎もありますから…喫煙スペース以外では…」
言いかけてビクニの顔から笑みが消えた。
「はぁ~そうでしょうな~火の取り扱いには気を使いますものね~昨日の今日だ、尚更か…そのロビーで、プロパン持ち込んでパーティを…幾度も…ね」
「たまには…ハメを外しますわ、籠りがちの研究者が多いですから」
「そうでしょうな…社員を大切にしていらっしゃるようだし」
相良が再び立ち上がりロビーの螺旋階段の手すりを眺めて手で撫でてみる。
「あの…なにか? 事故報告は済んでますし…現場検証も終わってるのですけど…」
「えぇ、えらい手際が良かったようで、昨夜の事故で、今14:45…うん、早い優秀だよ京都のお巡りさんは」
「軽い火傷程度で済みましたもので…大した事故でもなかったですから」
「プロパンが爆発してね、どこら辺に置いてあったんですか?」
「プロパンですか…ココです」
ビクニが指さした先は入口に近いロビーの端。
「ココですか…ガラス割れたんじゃないですか?」
「はい、すぐに入れかえましたが」
「頑丈なガラスですな~防弾みたい…」
「防音ですけど」
「2階へは、この螺旋階段だけですか?」
「いえ…職員専用のエレベーターもあります」
「ふ~ん、寄宿舎とは分けてあるんですね、職員さんと」
「えぇ…パッと見、解らないな…エレベーター」
「あぁ…コチラです」
「はぁ、随分と解り難い場所にね…なんか隠してあるみたい」
「そういうわけでは、景観を損ねないように気を使っただけです」
ビクニは思わずイラッとして髪をクシャッとかき上げた。
「学生さんは何人ほど?」
「全部で50人ほどでしょうか…中高一貫ですので」
「朝倉…という生徒がいますよね…元気ですか?」
「はい?」
「いや、中等部に…朝倉ユキという生徒がいるはずなんですが?」
「えぇ…おります」
「元気ですか?」
「特に…病気といった話は聞いてませんが」
「そうですか」
「あの、お知り合いで?」
「えぇ…彼が関与…いえ失礼、ほら、例の事件…事故か…あのね~」
「あぁ…そうでしたか…悲惨な事故だと聞いてます」
「知ったうえでコチラへ?」
「はい、彼の両親もARKの職員ですから…出来るだけ力になって差し上げたくて」
「さすが社員を大事にされてますね、彼の両親も安心でしょうね…」
「えぇ」
「うん…草葉の陰で?」
「はい? おっしゃってる意味が?」
「ハハハ…失礼、言葉を知らん無教養な刑事の戯言です、気になさらず」
「しかし…このガラス、特注でしょ?」
「まぁ…市販ではありませんが」
「そうでしょうな~水族館でも、こんな厚さのガラス使うかな? それにこの透明度…驚嘆ですな」
「科学の心得でも?」
「いえ…まさか…ただ、こんなガラスが一晩で直るのかと思いましてね…それ以前に、軽症で済む程度のガス爆発で、このガラスが割れたのかと…ね」
「なんにでも急所はありますわ、たまたま、当たり所ってこともありますでしょ」
相良は天上を眺めて、
「ススひとつ付いてない…密封性も高く、換気扇もないのに…」
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