第41話 狂流(キョウリュウ)

「人面の獅子、まるでスフィンクスね」

 ビクニは相変わらずの憎まれ口だが、その予想外の増援に思わずフッと笑みが零れる。

ロヨラ獅子座…だよな」

 ケンがモニター越しに呟く。

「カイト、一時退いて」

 ビクニが小太刀を納めて触手を避けつつ後方へ退がる。

「あっ? 冗談じゃねぇ!! こんな得体の知れねぇヤツに任せられる状況じゃねぇだろ」

「バカ…得体は知れなくても敵ではないわ、この場ではね…今は、猫の手も借りなければ全滅しかねない状況なの、把握しなさい、そもそも、アナタが一番、消耗しているはずよ」

「そうだバカ、今、一番足手まといなのはカイト、オマエだ、すぐ退がれ」

 キリコが怒鳴る。

「バカバカ言いやがって…」

「邪魔だ…退がってろバカ」

 ロヨラ獅子座にまで吐き捨てられるように後退を促されるカイト。

「クソッ!!」

「悟れ…村雨は霊力が不足すると…命を欲するようになるぞ、この場は、俺に預けろ…」

 右腕をダラリと下げたまま、足を引きずりながら床に伏せたままのユキの脇を歩いて行く…

「ユキ…化け物どもの始末は任せたぜ…ウチの玄関で勝手させんじゃねぇぞ」

 村雨の柄の先でコンッとユキの頭を小突く。

「任せたわよユキ…すぐ戻るからね」

 ウィンクしたキリコに肩を借りながらカイトは奥へ退がっていった。

 ARKの兵が退いて、広い吹き抜けのロビーには、ロヨラ獅子座アスクレーピオスへびつかい座、少し離れた場所へビクニとユキを残して誰も居なくなった。

「解った? 迷惑な隣人は玄関から上げちゃダメよ…ユキ」

 ビクニがユキに声を掛ける。


 ロビーの中央では、ロヨラ獅子座アスクレーピオスへびつかい座の触手をその爪で2本切り裂いていた。

 ビタン…ビタン…と千切れても跳ねまわっている。


「ユニットを使ったな…」

 ケンが歯ぎしりする。

 その脇で治療を受けていたカイトが訪ねる。

「ユニット?」

「あぁ…現存する台数は限られているけど、あの変貌は間違いないよ…奴ら、ユニットの回収に成功して、実戦投入してきたんだ」

「だから、ユニットってなんだ?」

「妖戒…おそらく彼らが造った唯一の兵器、対妖魔用のね」

「あっ?」

「妖戒は、妖魔を恐れたのさ…正確に言えば、メス型の妖魔を…」

「ソレを使うと、なるのか?」

「あぁ、遺伝子情報から強制的に最適な形状に変異するんだ…妖魔を駆逐するために最適な攻撃的な形態にね」

「つまり…ロヨラ獅子座とかいうデカンは、ソレを使ったと…」

「あぁ…まず間違いない」


ロヨラ獅子座、キミは複数の猛獣の遺伝子を組み込まれているんだ、ライオンだけじゃない、トラやクマといった遺伝子もね」

 ロヨラ獅子座の脳裏にジュリアン双子座の言葉が過る。

「ソレをこのユニットで引き出すということか」

「まぁね、ただ…」

「ただ…自我も徐々に喰われていくよ、キミは妖魔遺伝子のメス型に反応し駆逐するだけの人形になるのさ」

「そうか…そして…瓦解を待つだけの化け物に成り下がるということか」

「あぁ…キミの誇りも自我も…すべて数日のうちに消え失せる」

「それでも、あの化け物を止めなければならない」

「すまない…と思うよ」

「いい…アレを止める…ソレが俺の誇りであり、自らの意思で選ぶ生き方だ」


「だから…せめて、コイツは俺の手で…意識が残ってるうちに…」


 ロヨラ獅子座その姿は、自らが王であるという自負を強く…強く残し、変異した…異形でありながら、気高さを失なっていない。


「ゾンビのデカンが、俺に勝てるなどと思うなよ」


 人の面影を残していた、その顔も、少しづつ獣に変異していく…


 その戦いが始まって、7分…

 金色の獅子と異形のデカンは、咆哮とうめき声しか聞こえなくなっていた。

 爪と牙を触手が弾き、ときに切り裂かれ…確実にアスクレーピオスへびつかい座、その再生の速度が落ち始めていた。

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