第40話 柔巣(ニュース)
「もう一回、アレぶっ放しなさいよカイト!!」
キリコが触手に銃弾を浴びせながら叫ぶ。
「バカ、ありゃ、相当の集中力とタメがいるんだよ、こんな乱戦で何度も放てる技じゃねェ!!」
「役立たず!!」
「ユキ!! オマエ、夜叉丸はどうした?」
カイトが後方のユキに尋ねる。
「使用禁止だそうです…」
「下手くそな銃撃っても援護にもならネェぜ…ビクニ!!」
カイトがビクニに夜叉丸の解放を求める。
「ユキ…太刀を抜きなさい…アレはアナタの手で、もう一度ケリをつけなきゃダメ…」
ビクニが
「よく見なさい…アレに見覚えがあるでしょう」
今まで触手ばかりに翻弄されて本体など見る余裕は無かったユキ。
自動小銃の引き鉄から指を放し、触手の出ている先に視線をズラす。
「まさか…」
触手の太さ、長さに比べあまりに小さい身体。
小学生くらいの身長、黒目しかないような、真っ黒な目…
「イクト…橘イクト?」
ユキが信じられないものを見たといった顔で確認するように呟いた。
「ユキ、あなたがアレを斬るのよ」
そう言うビクニの目は、とても冷たく絶対的強者の威圧感を放っていた。
ビクニとユキの会話を聞いていたキリコが後方のユキをチラチラと見ている。
(知り合いなのかしら?)
夜叉丸が殺した…同級生
ユキがARKに預けられることになった事件の被害者だ。
「なんで…なぜなんですビクニさん!!」
「事情が知りたければ、後で話してあげるわ…生きていられたらだけど、まずは現状を認識しなさい、生き残らなければ、何も知ることはできないの」
「嫌です!! 撤退させてください…」
「ダメよ…あなたが招いた結果だもの、アナタがケリをつけなさい」
ビクニは淡々とユキに話しかける。
「ビクニ!! ユキは下げよう、無理だ…」
完全に戦意を削がれているユキをキリコが気遣う。
「ダメよ、自分の手で刈り取りなさい…もう一度ちゃんと殺しなさい、夜叉丸に擦り付けずに、自分の手で」
「自分の手で…」
ユキはチラッと腰の太刀に視線を落とす。
「抜きなさい、ユキ…あれは、あなたが産んだ化け物よ」
「僕が…」
「そう…だから、もう一度殺しなさい、人を殺すということを、今度は、自分の手で学びなさい」
「嫌だ…嫌だーーー」
叫ぶユキの声を遮るようにビクニの蹴りがユキの横っ面に入る。
倒れたユキに背を向けて
「キリコ、ユキが逃走したら撃ちなさい、ケン、モニターしてるわね、全チームに通達、触手は再生する、しかし無限ではない、限度がある、触手に攻撃を集中、本体は無視しなさい、本体への攻撃は、私のチームで引き受けます」
「……了解」
「ユキ…夜叉丸は、アナタの身代わりじゃないのよ…いつまでも夜叉丸に頼らないで、自分の足で歩きなさい」
そういうとビクニもカイトのもとへ走って行った。
「ユキ…戦えよ…あの化け物にじゃなく、自分とさ」
キリコが手を差し伸べた。
その手を拒むようにユキは倒れたまま身を丸めた。
「そうだな…自分で立たなきゃな」
キリコが弾を込め直し、カイトとビクニの援護を開始する。
触手も千切れては生え、デカンの弱点、その活動限界は無限かのようにも思える。
20数名に及ぶ駆除隊の猛攻にも陰りが見え始める。
数名は、倒れたまま動かない…あるいは絶命しているかもしれない。
「これがARK御自慢の兵隊か? 随分と貧弱になったじゃないか」
割れたガラスを潜って入ってきた獣。
その異形は
「ライオン…か?」
誰かが呟く。
「もはや人には戻れぬ…未練も無い…王たる血によって動く、孤高の獣王、我が名はロヨラ」
その姿は4足の獣、雄々しく立つ、その姿は『王』たる自負に満ちていた。
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