第39話 雷音(ライオン)

「コア・クリスタル…」

「そうさ…ジュリアン双子座が僕に埋め込んだんだ」

(時間が無かったから…突貫工事だったけどね)

「なぜジュリアン双子座が?」

 マルティノ蟹座が腑に落ちないといった顔をする。

「ロヨラには『ユニット』を…あなたには『コア・クリスタル』…そういうことなの…」

 ドラード蠍座は納得がいったという顔で呟く。

「どういうこと?」


 話しは少し前に戻る…

「この『コア・クリスタル』が何なのかわかるかいヴァリニャーノ射手座?」

『ユニット』と『コア・クリスタル』を受け取ったジュリアン双子座が訪ねる。

「抜き取った妖魔のコアが自身を守るために結晶化したモノ…くらいかな」

「そう…稀な現象さ、コレはいわば妖魔の記憶媒体そのものだ、キミに回収してもらったこの『コア・クリスタル』は、妖戒のものだ、つまり人間の情報をもたないコアだよ」

「純粋な水晶体ってこと」

「そうだね、コレをキミに埋め込む…」

「へぇ~、で僕はどうなる?」

「コアが目覚めるまでは、妖戒の能力をキミに宿せる…期限付きのブースターだと解釈してくれていい」

「期限付き…どのくらい?」

「解らない…数時間かもしれないし…数年間かもしれない、覚醒はランダムだからね」

「そう、で? 僕にどうしろと?」

「『ミコト』を殺してほしい」

「僕が? ロヨラ獅子座に頼めば? 彼には『ユニット』を取り付けるんだろ」

ロヨラ獅子座には…アスクレーピオスへびつかい座を止めてもらう」

「そっちのほうが楽そうだ」

「どうかな…キミにARKの手助けはできないだろ」

「あ~…まぁ…無理かな」

「それに『ユニット』は妖戒が妖魔を駆逐するために造った、唯一の兵器だ…彼らが残した、唯一の兵器…それは人間を…妖魔を始末するために造られたんだ」

「まぁ、聞こえはARKと同じだね」

「そうさ、NOAは妖魔が支配する楽園を目指した…ARKは妖魔を排除して楽園を目指す…そのために妖魔を用いる技術が真逆になる」

「……いいよ、『コア・ユニット』引き受けよう」


 ……

「…と、まぁ、そんな経緯でね…できれば邪魔しないでほしいんだけど」

「『ミコト』を…殺す…」

 マルティノ蟹座が呟く

「協力しろなんて言わない、邪魔するなと頼んでいる」

「そんなこと…できるの?」

 ドラード蠍座ヴァリニャーノ射手座に尋ね終わる前に、ドラード蠍座の首が畳に落ちた…。

 マルティノ蟹座ヴァリニャーノ射手座の方へ飛び退く。

「グッ…」

 一瞬遅れ、マルティノ蟹座の背中がザックリと裂ける。

「さすがに甲羅は固いようね…」

 いつの間にか、マルティノ蟹座の後方に姿を現した『ミコト』が薄く笑う。

「逃げなよ…足手まといだからさ」

 ヴァリニャーノ射手座マルティノ蟹座に逃走を促した。

「盾くらいには…」

「ならないんだよ!! ARKへ行け!! ユキというガキがいる、そいつを頼りな」

ヴァリニャーノ射手座…ごめん」

 マルティノ蟹座が走りだす。

「追わないんだね」

「意味がないからよ…」

「そう…」

「何の取り得も無い孤児…拾ってあげたのにね」

「そうさ、拾われて化け物になれたよ」

「なれなかった子も大勢いるのよ」

「そうだろうね、だからかな…僕はオマエが好きになれない!!」

 ヴァリニャーノが懐から銃を取り出し、引き鉄を弾く。

 15発、全弾が発射されるのに数秒…

 撃ち尽くした銃を捨て、両手にナイフを構える。

「オリハルコンの弾丸…そしてミスリルの高周波ブレード…効かないってことはないよね」

 言い終わる頃には、『ミコト』をすり抜けたように後方に移動していた。

 着物が裂かれ、白い肌から赤い血が溢れる。

「フフフ…末っ子ゆえに甘やかしすぎたかしら?」

 気にも留まらないといった顔でクルリと振り返りヴァリニャーノ射手座に優しく笑いかける。


「クビでも落とさないと…仕留められそうにないようだね」


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