第38話 雌徒路(メトロ)

アスクレーピオスへびつかい座をARKへ送ったのですか?」

 マルティノ蟹座が『ミコト』へ尋ねた。

「えぇ、挨拶へ行かせたの…ダメ?」

「いえ…しかし、本社へ送るのでしたら、ジュリアン双子座が強化した妖魔を数体、別の場所へ放して、戦力を削いでからでも…」

「それじゃあ、面白くないじゃない」

「面白く…ない?」

 マルティノ蟹座は思わず睨むように『ミコト』の目を見た。

 ゾッとするような瞳は金色の光を放っていた。

 すぐに我に返って視線を逸らす。

(化け物…が…)

「心配しなくても、ARKには強力な助っ人が送られているわよ」

「はっ?」

「ん、ジュリアン双子座が送り込んだようね…困った子だわ…子達かしら?」

ジュリアン双子座が? なんのために? ARKに助力を?」

「理由は…そうね…反抗期かしら? おしおき、躾が必要ね」

ドラード蠍座?」

「彼女に頼んだわ…やり過ぎなきゃいいけどね…ウフフ」

ミコト』が愉悦の笑みを浮かべて笑う。

 マルティノ蟹座が走って和室を出て行く。

 向かった先はジュリアン双子座の研究室、ロックが外れたままのドアを乱暴に開けて中へ入る。

ジュリアン双子座!! 」

 そこには紫に変色したジュリアン双子座が事切れ、倒れている。

 部屋の隅からパンツスーツのドラード蠍座が現れる。

ドラード!!蠍座アナタ…」

ジュリアン双子座は私が殺した…彼は責任を取ったのよ」

「どういうこと?」

「その代わり…私は…彼の最後の願いを聞くことにしたの…」

ドラード蠍座…その代償が…コレ?」

「そうよ…」

ドラード蠍座…止めてよ…これじゃ共食いしてるようなものじゃない…」

マルティノ蟹座、私達は…ソレを止めるために…デカンは造られていたはずなのに…ね…悲しいわね」

「人はどこまでも…殺し合うのかしら…」

 マルティノ蟹座の目には涙が溢れ…しばらくの沈黙の後、ドラード蠍座を残して『ミコト』のいる和室へ戻った。

「『ミコト』…アナタを許せない…」

「なんのことかしら?」

「私は…人の…殺し合いを止めるために…私達のような孤児を生まない世界のために、この身はあると…」

 ジャケットを脱いで、シャツを引き裂く。

 その細い肢体には赤く染まった甲羅が、まるで鎧のように張り付いている。

「この醜い身体は…人を殺す為にあるんじゃない!!」

 そのまま『ミコト』に飛びかかるマルティノ蟹座

「そう、簡単じゃないだろ!!」

ミコト』の後方の屏風から飛び出したのは、ヴァリニャーノ射手座

 その蹴り足が、マルティノ蟹座の右ひざを捉え、顔から畳に叩きつけられた。

「貴様…」

 顔を上げたマルティノ蟹座をヴァリニャーノが足で抑えつける。

「久しぶりだ…僕も、綺麗な顔を踏みつけるのは気が引けるんだけどね、あっ…こうしてると、その綺麗な顔も見えないから…気は引けないか?」

ヴァリニャーノ射手座ーーー」

「潰れろ…マルティノ蟹座

 その足にグッと力が込められる。

「あぁぁーーーー!!」

 襖を破って、飛び込んできたドラード蠍座の爪がヴァリニャーノ射手座の胸に突き刺さる。

 ガクンと畳にひざまずくヴァリニャーノ射手座

 飛び起きて後ろへ飛び退くマルティノ蟹座

「なんてね」

 伸びきったドラード蠍座の腕を両手で絡め、ゴキンッとへし折るヴァリニャーノ射手座

「グッ…毒が効かない?」

 折れた右腕を押さえて、ドラード蠍座も後方へスッと身を引く。

「毒…いや、効いてないわけでもない…動きが少し鈍いような気がするからね」


 ソレを楽しそうに見ている『ミコト

(クククッ…ヒトが残っているうちは…こんなものか…)


「効いてないわけじゃないけど…死ぬほどでもない…僕も強化されてるんだよ…最後の仕事のためにさ」


 スーツの下のワイシャツを引き裂いて胸を見せるヴァリニャーノ射手座

 胸の中心には薄く光る青い水晶のような石が乱暴に埋まっている。

「ユニットと一緒に回収したんだ、『コア・クリスタル』」



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