第37話 紗々目(ササメ)
「御目覚め…ユキ?」
ビクニが部屋に入ってきた。
「僕は…」
「あぁ…記憶が飛んでるだけよ、と言っても、飛んで困るような記憶でもないし、気にしなくていいわ」
少し間を置いて、ビクニが訪ねる。
「身体は?」
「はい…大丈夫です」
「そう」
ビクニはチラッと部屋の隅に視線を移した。
隅で赤い目でコチラを見ている霊獣
(ユキは気づいているのかしら…それとも…)
夜叉丸の尾は2股に割れ、白い毛並みはそのままに、黒い毛が左右均等に頭部から尾にかけて生えている。
その容姿は、あからさまに変貌を遂げているのだ。
より獣の凶悪さが前面に出てきたような感じだ。
その赤い目は、ビクニを品定めしているような感じでジッと見据えている。
(気づいてないはずはない…気にしてないのか…記憶が曖昧になっているのか…)
扱いにくい子供が、さらに難しくなった…
とぼけているのか、意図して何か考えているのか、さっぱり解らない。
「次の任務に支障は無さそうね」
視線をユキに戻して、平静を装い部屋を出たビクニ。
(白虎がユキに影響したのか、その逆か…ユキの凶暴な面が白虎に宿った、そう考えたほうがよさそうね)
子供特有の残酷さが一体化したことで白虎に移された。
(ユキに、もう神化させてはいけない、あれは妖魔の完全化とは違う人が産み出してしまった最悪の無差別駆逐型の生体兵器、飲まれれば手が付けられない…)
「しょうがないわね…神化させるよりマシだわ、魔神器、あの太刀を使わせるしかないわね」
自分に言い聞かせるように呟いた。
その太刀を抜く機会は、思ったより早く訪れる。
「ユキ…行くわよ」
移動するかと思いきや、他のチームもロビーに集まっていた。
「来たわよ…」
月を背にしてARK本社の敷地を無人の野を歩くが如く、四方からの銃弾を物ともせずに進んでくる異形のシルエット。
その背中から羽のように広がる触手が正面の防弾ガラスに突き刺さる。
「コレを破るのかよ…」
後方から誰かの呆れたような声が聞こえた。
触手の先端に無数の牙が生えた口が開き無差別に襲い掛かる。
その数12本…
各自、各々の武器で応戦している。
しかし…その触手の1本が滑るように刃を逸らし、別の触手はその強靭な鱗が銃弾を弾く。
「あの鱗…
フロアの上方から見ていたケンが呟く。
他のチームのバックアップが、即座にデータベースにアクセスして
「気色の悪い、ヌタウナギ風情がーーーー!!」
カイトが村雨構えて自らの霊気を刃へ移す。
「
村雨で空を斬るように振ると、移した霊気の刃が宙を駆け触手の1本を切り落とした。
「ヒバザン?」
キリコが首を傾げた。
「おう、飛ぶ霊気の斬撃だ、かっこいいだろ」
「いや…語呂悪くない?」
「うるせぇ!! 2晩考えたんだ」
「……バカなの?」
「遊んでないで、触手を抑えなさい!! アレを止めない限り、本体には届きそうにないわ」
ビクニが小太刀を振り回しながら、2人の脇を駆け抜ける。
「本体の足止めと、触手のトドメは任せて」
キリコが落ちてビタンビタンと、のた打ち回る触手に銃弾を浴びせる。
「ユキ!! 触手の動きが止まったら…太刀を抜きなさい!! 夜叉丸は動かさない、解ったわね!!」
ビクニが後方のユキに指示を出す。
(夜叉丸を出すな…なんで?)
こういうときこそ、夜叉丸の牙が有効なんじゃないのか?
ユキはビクニの指示に違和感を覚えた。
「太刀を抜け…だと…血を吸う太刀を?」
後方で自動小銃を構えるユキが撃つのを止めて、腰の太刀に視線を移す。
禍々しい妖気が漏れるような太刀が、ドクンと脈打ったような気がした。
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