第42話 雨図(ウズ)

「あのさ…調べるついでにさ、あたってほしいんだけど」

「何をですか?」

「橘イクト…あの時の犠牲者…というか被害者というべきか…死んだ少年」

「被害者?」

「あぁ…言い方良くないかな?」

「誰が加害者なんですか?」

「そりゃあ…まぁ…」

「朝倉ユキと?」

「うん…そう考えてもいいかなと」

「証拠もなしに…」

「状況証拠…って言葉もあるよ」

「はぁ…」

 花田が大きなため息を吐く

「相良さん…」

「なに…」

「そのクリームソーダをブクブクするの止めてもらえませんか」

「やりたくなるんだよな~」

 ヘラッと笑う相良。


「橘イクトの何を調べるんです?」

「ん…遺体、どこに運ばれたか…」

「はい? 病院から火葬場…ですか? 桜井 敦の時のように?」

「いや…遺体さ、家に戻されてないからさ、火葬場は無駄なんだよ、たぶん、燃やしてない…」

「はい?」

「うん…あの遺体、追えるとこまで追ってくんない?」

「追えるとこ?」

「どっかで途切れる…んじゃないかな~と思うんだよ」

「解りませんけど」

「その途切れた先にさ…が…」

「なんです?」

「いやなんでもない…頼むよ」


(その先にARK…あるいはNOA…どうもキナ臭い事件の陰でヒラヒラと踊ってるんだよな…その2社が…化け物の先にあるグローバルカンパニーか…あっARKは財団だっけか?」


 喫茶店でクリームソーダをブクブクと泡立ててから5日…

「解りましたよ…京都の私立病院までですが…」

 花田がペラッとA4用紙を相良に渡した。

「どうも…ココのハンバーガーって好きになれないな~」

「なんでも同じじゃないですか?」

「同じじゃないよ、ココのチェーン店のはスカスカ感が好きになれない」

「スカスカ? ふかふかじゃなくて?」

「スカスカだろ…コレ?」

「軽い食感が嫌いなんですか?」

「そうなのかな?」

「タバコだって、スカスカじゃないですか」

「タバコは、ズシッと吸った感があるよ」

「煙がズシッと?」

「うん…あるよ…」

「変なの」

「うん…変だよな…確かに」

「まぁ、その病院から先は解りません…何でも個人情報保護だそうで、正式な令状がないと開示はできないそうです」

「そう…か…てことはさ、令状が無いと教えられないようなトコロに行っちゃってるってことかな」

「さぁ?」

「まぁ…ありがと…京都に行こうか?」

「はぁ? 旅行のCMみたいなノリで言いますね」


 ホテルに戻って、カタカタとパソコンを叩く相良。

(ほらね…NOAの方か…どこぞの化け物が逃げた病院ってのも…そういうことなんだろうな~、子供の死体を回収して何をしてるんやら…)

「ココから先は…迷宮かな?」


 タバコを吹かして天上に煙を吐き出す。

「ガツンと感じるけど…掴めやしない…それでいて、止められない…」

(身体に悪いんだけどな~)


 視えない場所を蝕む嗜好品…

 日進月歩の医療の陰に何人の犠牲が眠ってるんだろう…


「役に立つのかね~」

 チラッと机の上の化け物の写真を見る。


「朝倉ユキ…現在はARK宿舎から中学校へ…ARK資本の…か」

(加害者はARK、犠牲者はNOAへか…)


 部屋の電話が鳴る。

「相良さん、切符買いましたよ」

「切符?」

「新幹線のですよ」

「そうだろうけど…切符で乗るの?」

「はっ?」

「いや…いまどき切符ってさ…」

「ウチの田舎では切符で電車乗りますけど?」

「いや…そうなんだけどさ…緑の窓口とか行ったわけ?」

「行きましたよ~、アタシ電車とか、ほとんど乗ったことないもんで…あの駅弁とか買えますかね?」

「うん…売りに来るし…駅でも買えるんじゃない?」

「楽しみですね」

「修学旅行じゃないんだよ…」

「京都って、それ以外で行く用事ありますか?」

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