第4話 教示(キョウジ)

「現地に到着しました、ビクニさま」

「行くわよユキ」

 静かにビクニがヘリを降りた。

「お気をつけてユキさん」

 ヘリのパイロットが僕に声を掛ける。

 きっと、同じ歳くらいの子供がいるのかもしれない。

「ありがとう」

 僕は山の中腹部へ着陸したヘリから草むらへ降りる。

「こんな山奥に…」

「バカね…追われたか…逃げたか…だから山奥なんでしょ」

「自我が残っているということですか?」

「本能のまま人を捕食しないということは、そういうことでしょうね」

「やり難いですね」

「ユキ…やるって、どういう字を宛てた?」

「どういう字?」

「そう…殺すと宛てたかと聞いたのよ」

「いや…困難という意味で…」

「何が?アナタ…封じることなんてできないでしょ…」

「グッ…」

「アナタにできるのは、殺すことだけなんじゃないの夜叉丸で、この間のように」

「好きで殺したわけじゃない!!」

「じゃあ、封じることができるようになりなさい!! それができない限り、アナタは妖魔化した人を殺す以外の手段で止めることができない!! 後、何人殺せば出来るようになる?」

 黙るしかなかった。

 僕には封魔が出来るらしい。

 未だに一度たりとも出来てないのだが…。


 ココに来て半年、いまだに『夜叉丸』を上手く扱えない。

 歩きながらビクニが僕に話しかける。

「ユキ確認するわよ」

「えっ?」

妖戒ようかいって何?」

「あっ…平安京に張られた結界のほつれから現れた異界の生き物」

「私達がこれから処理するのは?」

「妖魔と呼称された妖戒の遺伝覚醒先祖がえりした……人……」

「私達の役目は?」

「……妖魔を封じること…」

「そうね…その方法は?」

「コアを抜き取り、術式で滅する…」

「今夜は出来るかしら?」

「……解りません」

「封じられない場合は?」

「身体ごと…滅します…」

「そう…助けられるのにね、正確に言い換えれば、コアを抜き取れれば、元に戻せるかもしれない…出来なければ殺す、いいわね」

 ビクニは語気を強めて僕に言った。

(解っているよ…でも、きっと…)

 ボフンッ…

 オレンジの光が夜空を染めて、破裂音が空気を震わせる。

「ヘリが!!」

 僕が振り返ると炎の塊が山に落ちていく。

「来たわね…やっぱり」

「ノア…」

「奴らより先に妖魔を確保するわよユキ、もうダラダラ、レクチャーしているヒマは無いわ」

「はい」

(いつもレクチャーなんか、まともにしたことないだろ…封魔のやり方だって…)

 イラだちを顔に出さないように僕は必死に平静を装っていた。

 色々、考えていた、さっきのヘリのパイロットの事も…

「今、考えなければならないことは、妖魔のこと…そして、『デカン』のこと、この2つ以外のことは考えない!!」

「クッ…解ってます……」

 言ったものの、ユキは奥歯を噛みしめていた強く…強く…

(この女は、何も感じないのか…いつも、いつも、無表情で妖魔を狩り…目的のためなら仲間さえ見捨てて…捨て駒にすらする…)

「納得できないって顔ねユキ」

「いえ…解ってます…」

「何が?」

「妖魔を放置すれば…どうなるかくらい…」

「そうね…もう一度、確認してくれる?」

「妖魔は…人に植え付けられた妖戒の遺伝子が覚醒し変異した生まれ変わりとでもいう状態、深い絶望…あるいは突然死で覚醒し、急速に身体も自我も妖戒の本能に支配されていく、概ね、72時間で変異は完了し妖戒と人のハイブリットとして生まれ変わる…」

「そして?」

「そして…妖戒の本能に支配された妖魔は…寿命が尽き生殖行動で遺伝子を植え付けるまで人を捕食し続ける、寿命は個体差はあるが5年程度と推測される」

「そう…記憶をも受け継ぐために寿命は極端に短い、けれども、人と交わったことで徐々に寿命は延びている…とも思われる…ゆえに植え付けられたコアを破壊することが望ましい」

「捕獲は出来ないんですか?」

 ユキの問いかけに冷たい視線で応えるビクニ。

「復習はおしまい…来るわよ」



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