第23話 王姥(オウボ)

「『ミコト』様、ご用意は整っております」

 ドラード蠍座ひざまずいた『ミコト』と呼ばれた少女。

 まだ幼さの残る顔立ち、身長は150cmに満たない小柄な少女は白い着物を纏い和室に座っていた。

ミコト』の隣にはマルティノ蟹座が立っている。

マルティノ蟹座、『ミコト』様、屋上へ移動しましょう、ヘリが待機しております」

ミコト』が立ち上がると、マルティノ蟹座も立ち上がった。

 細身の体躯、長い手足に長い髪、見た目は『ミコト』の倍はあるのではと思うような長身の女性。

 やはり小柄なドラード蠍座と比べても大人と子供ほど身長差がある。

アグスチーノ天秤座は問題ないのですね?」

ミコト』が念を押すようにマルティノ蟹座に尋ねた。

「はい、アグスチーノ天秤座はバックアップがすでに日本で起動済みです、ファーストは廃棄処分で問題ありません」

「『ミコト』様、ロメンソメシア水瓶座は…よろしいのですか?」

 ドラード蠍座が不安そうに尋ねた。

「デカンはすでに役目を終えています…最後のデカンが産まれた今、これ以上増やす必要はありません」

 冷ややかな眼差し、歳にそぐわぬ威圧感を持った言葉、見た目と裏腹に、瞳だけがやけに年老いたように見える『ミコト


 3人がヘリで空港へ向かって2時間後…ロス支局ビルは何者かに爆破され倒壊した。


「生き残ったデカンは…アグスチーノ天秤座?」

ミコト』がチャーター機の端末から尋ねる。

ジュリアン双子座ロヲラ獅子座の生存を確認」

 無機質なマシンボイスが淡々と読み上げる様に答える。

ヌーノ山羊座マンショ牡羊座が逝ったということね、どう動くかしらね…あの2人は?」

ミコト』の表情には憂いとも思える悲しみが浮かんでいるようにも見える。

 ドラード蠍座は、『ミコト』の真意を測れずにいた。

(なぜこんなことを…)

 自分達は用済み。

 そんなことを考えずにはいられない。

(こんな少女の気分で…ワタシは?)


 チャーター機の2階に『命』だけ残し、ドラード蠍座マルティノ蟹座は1階へ降りた。


 互いに少し離れた席に座り、しばし無言の時間が流れる、話しかけたのはマルティノ蟹座だった。

「ねぇドラード蠍座…死んだと思う?」

ヌーノ山羊座マンショ牡羊座のこと?」

「えぇ…」

「死んだとは思えない」

「思いたくない?」

「……ヌーノ山羊座が知らなかったとは思えない…マンショ牡羊座には…生きていて欲しいと思う」

「そう…そうね」

 マルティノ蟹座は、それきり黙って窓から外を見ていた。

(空から見ると虹は丸く見えるのね…)


 到着した国『日本』


「これからはメイン機能を、この国に移します…フロフキの独占…そして妖魔、願わくば妖戒の捕獲を最優先機能として行動してくださいね」

ミコト』が穏やかな口調でドラード蠍座マルティノ蟹座に話した。

 マルティノが聞き返した。

「『ミコト』様、デカンはすでに…」

 言いかけた言葉を遮るように『ミコト』が答えた。

「デカンは完成されています、彼がいれば問題ありません…ARKのほうも…彼に対応させます」

「……私たちは…私たちはどうなるのでしょうか?」

 ドラード蠍座が少し取り乱したように『ミコト』に尋ねる。

 冷ややかな眼差しをドラード蠍座に向けた。

「何も…何も心配することはありませんよドラード蠍座…何もね」

 優しい口調…恐ろしく冷ややかで鋭い視線は、とても少女のソレではない。

(何も…心配いらない…)

 黙って聞いていたマルティノ蠍座は心で幾度も繰り返していた。

(何も心配いらない…の…もう何の価値もないから?)


(最後のデカン…12星座を冠に持つ12番目『ヴァリニャーノ射手座』が最終形態なのか…)

 新しいオフィスビルに用意された部屋へ戻って冷静に考えられるようになったドラード蠍座が腑に落ちないといった顔で鏡を見つめる。

 自らの肢体を鏡に映し言い聞かせるように

「だったら…許さない…」

 長い指、紫の爪を鑑越しに見つめる視線は……

 瞳の奥に決意の光…負の光宿すドラード蠍座の毒爪。

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