第22話 乱鬼(ランキ)

「デカンの俺達が全員、日本を離れるなんて過去に無かったな」

 ロヨラ獅子座ヌーノ山羊座に話しかけた。

「そうじゃな…誰かしらは日本に残るのが通例じゃが…今回は、ソレだけ異例だということじゃろうな」

「ソレだけか?」

「どういうことじゃ」

「日本は妖魔発生率の8割を占める国だ…オカシイと思わないか?」

「ん…デカンがというかNOAが日本を手薄にしたということがか?」

「あぁ…アグスチーノに繋いでくれ」

ライブラ天秤座・アグスチーノ』生体コンピュータとして意思も自我も持たないNOAのメインシステムと繋がったサイボーグ・デカン。

 生物と掛け合わされたデカンの中で唯一無機物と融合した特殊なデカンである。

 主な役割は『ミコト』の命令を熟す為に最善のプランを算出すること。

ミコト』のためだけの演算機。

 そのため、アグスチーノ天秤座には、NOAのあらゆるデータバンクに無条件でアクセス可能な権限を持っている。

 基本的には『ミコト』の命令以外は聞かないのだが、ある程度はデカンや他の主要メンバーにも利用は許されている。

 ただし、アグスチーノが『ミコト』の意思に反すると判断した場合は当然回答を拒否する。

アグスチーノ天秤座ヴァリニャーノ射手座は何処へ向かった?」

 ロヨラ獅子座が訪ねた。

『現在、メキシコへ移動中です、目的は開示できません』

 ジュリアン双子座が持つ端末からマシンボイスが流れる。

 ガタッと椅子を鳴らしてミゲル牡牛座が黙って会議室を出て行った。

(猪突猛進…ミゲル牡牛座よ、返り討ちに遭うなよ…)

 ロヨラ獅子座が怪訝な表情でミゲル牡牛座の後姿を見送った。

 エレベーターの前では、一足早く退室したマンショ牡羊座が立っていた。

「やはり来たわね…ミゲル牡牛座

「そこをどけマンショ牡羊座

「短気ね…タウラス、気質は関係ないと思ってたけど、案外、影響を受けるのかしら?興味深いわ」

「化学班として興味か…後にしてくれ…今は、大人しく通してくれないか」

 少し穏やかな口調になったが、その表情は怒りに満ちている。

「止める気はないわ、その気なら、こんなモノ持ってこないわ」

 マンショ牡羊座が白衣のポケットから緑の液体が入った注射器を取り出した。

「なんだ?」

ヴァリニャーノ射手座は強いわ…あなたよりね」

「ムッ…」

「サジタリウスは完全な戦闘タイプとして調整されたデカンなのだからね」

「俺とは違うと?」

「知ってるわよね、射手座・獅子座は戦闘タイプ、山羊座・双子座・牡羊座アタシは知力強化型、蟹座・蠍座は『ミコト』の警護防御特化型、魚座と牡牛座は天秤座直轄の諜報部員、アナタは妖魔捕獲が目的、長時間行動可能な分…」

「単体の戦闘力は射手座に劣ると…」

「そういうこと…そこで、これが必要なのよ」

 ミゲル牡牛座マンショ牡羊座から注射器を受け取った。

「リスクは?」

「人型には戻れない…と思うわ」

「フッ…俺の足も牛になるのか?」

「さあね…まぁ覚悟はしておいて頂戴…」

「あぁ…礼はいらないよな」

「もちろん、人体実験に協力してもらうんだから、言いたいくらいよ」

「そうか・・・じゃあな、どいてくれ」

 マンショ牡羊座が無言でエレベーターの脇に動いた。

 扉が閉まる直前…

「ありがとな…」

 ミゲル牡牛座がボソリと呟いた。

 扉が閉まり、階下へ降りるエレベーターを眺めていたマンショ牡羊座

「バカ…でも死に際くらいは…自分で選びたいわよね…お互いに」


 ヴァリニャーノ射手座がメキシコに着いて向かった先、マヤ文明『チチェン・イッツァ』

 表向きはすでに観光地化され、『エスカスティージョ』は今さらNOAの興味を惹く物などありはしない。

 表向きは…

 ヴァリニャーノ射手座が訪れた理由は他にある。

 メキシコの遺跡は何処も不思議な感覚を呼び起こさせる。

 しばらくは一般人として遺跡を巡るつもりでいた。


 4時間遅れでメキシコへ着いたミゲル牡牛座ヴァリニャーノ射手座を探していた。

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