第21話 霊懇(レイコン)

「僕はなぜ…デカンを前にすると…」

「それは…デカンが妖魔、あるいは妖戒に近しい存在だからだと思うわ」

「思う?」

 ユキは珍しく不明瞭なビクニの返答に驚いた。

「デカンについては、今は詳しく語らないほうがいい…今現在の私達の持つ情報は推測が多すぎる、近いうちに、あの魚から詳しく解るはずよ」

「そうですか…」

 納得していないユキの顔を見てビクニが言葉を補足した。

「でも…その推測は、アナタの行動を見ていると間違いではないと私は思っているわ」

「デカンからは妖魔の臭いがする…」

「そうね」


「そしてソレはNOAの連中が妖魔を使って、何かしているという証明でもある」

 キリコが席を立ち、ピザを皿に移しながらモニターに背を向けたまま話した。

「ロクな事に使って無さそうだけどな…あの魚野郎を見ると」

 カイトがすでに炭酸の抜けたであろうコーラを一気に喉に流し込んだ。

「正直に言えば、遺伝子工学という分野ではARKよりNOAの方が数段上よ」

 ビクニがオレンジジュースを取りに歩きながら話す。

「人体実験に歯止めが無いからね…アソコはさ」

 ケンが蕎麦を食べながら興味無さそうな口調で話した。


「まぁ…隣の芝を語っても得る物などないわ」

 ビクニが後ろの椅子に腰かけて、もう話すことは無いとばかりに足を組む。

「NOAのことはいい!! ARKってのは? 僕達は何のために妖魔を狩るんだ?」

 ユキが少し興奮気味に後ろを振り返りビクニを睨む。

 ふぅ~っとため息を吐いてビクニは答えた。

「妖魔は…妖戒と似て非なる存在だと、解るわね?」

「えぇ…理解できていると思います」

「妖戒は人を捕食しない…興味で食ったことはあるでしょうけどね、でもね…妖魔は人を食うわ…アナタが妖魔を食いたがるようにね」

 タバコに火を点けるビクニ

「ビクニ…」

 ソレは言っちゃダメだとばかりにケンが首をすくめながら両手で大袈裟に天を仰ぐ。

「なぜ妖魔は人を食うようになるんですか?」

「アナタは私が何でも知ってると思ってない?」

 ビクニは答える気は無いと言わんばかりにユキから視線を外した。

「矛盾してるような気がするんです…妖戒の時には人を食わないけど、妖魔になると人を食いたがるなんて…同じ存在として生まれ変わるって……」

 言いかけてユキは言葉を閉ざした。

「頭のいい子ね…理解できたかしら?」

 ビクニはローストビーフをフォークで突いている。

 食べる気はないらしい。

「人の遺伝子には…同族を憎むという本能がある…」

「当たらずとも遠からずってヤツね、そう、人は人を殺すわ…色々な理由でね」

「人の遺伝子を摂り込むことで…凶暴化したのか?」

「かつての同族を襲うようになったのは…妖魔からなのよ、極めて珍しい性癖よね、同族を殺すって、数ある生き物の中でも…」


 ビクニが話すには…

 メス型が突然変異だと位置づける理由は、同族を殺したいという本能を持ったオス型の妖戒だからだ。

 自らの進化に貪欲な妖戒は、あまり他人に興味を抱かない。

 他人に興味を抱き、嫉妬や憤怒という感情を覚えたオス型が変異したものがメス型だと言うのだ。


「急に異質な存在を身近に感じるような話しになったな…」

 カイトが麻婆豆腐を食べながら口を開いた。

「そうね…嫉妬というか独占欲がって考えたら理解しやすいわね」

 キリコがカルボナーラを皿に取りながら自らの言葉に頷いている。


 ユキだけが不満そうにビクニを見ていた。

「そう難しく考えるなってことだ」

 カイトがユキの頭をポンッと軽く叩いて、ユキにコーラを差し出す。

「そうよ、少年、思春期らしく、アタシの胸や下着の色で眠れなくなってたほうが健全なのよ、とりあえず、アンタ、就職先とか考えなくていいわけだし、今は、この恵まれた環境で悶々と育てばいいわ」

 キリコが胸をユキに見せ付ける様にポーズを取る。


(馬鹿ばっかりなんだな…ココは…)

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