第2話 変化(ヘンカ)

「どう思う?あの少年」

 相良が花田に尋ねる。

「スゴイ家でしたよ、旧家っていうんですかね、昔からの金持ちって感じの」

 花田がナポリタンをフォークに絡めながら相良に話した。

「家はともかくさ、なんかアイツに似てるような感じがね…したんだよ」

 ピタッと花田のフォークが止まる。

桜井さくらい あつし…ですか」

「まぁ…歳に似合わぬ達観した感じがね」

「たまたま、あんな現場に居合わせてショックだったんじゃないですか? PTSDを警戒して学校側も明日は休校、生徒のカウンセリングもするみたいですよ」

「まぁ…当然だろうね~、それよりさ…現代の恐怖だよコレは」

 相良がスマホを花田に差し出す。

「えっ? 箝口令敷いたんじゃ?」

「人の口に戸は…ね…」

 スマホには『橘イクト』の死体が映し出されている。

「情報化社会の弊害ですね」

「弊害…なのかな? とりあえず有害ではあるけどね」

「朝倉ユキ…引っ掛かるんですか?」

「まぁ…さ…ミミズがね這ってたんだよ」

「はい?」

「いや、学校の玄関にさミミズ…コンクリートの玄関に」

「止めてください!! ナポリタンを食べてるんですアタシ」

 花田が、あからさまに嫌な顔をする。

「うん…このスパゲティくらいのさ、長いというかデカいヤツ」

 相良が指でパスタを摘み上げる。

「ホント止めてください…あと、スパゲティって言わないでください」

「スパゲティだったんだよ、俺の時代はさ、いつからパスタなんて呼ばれたんだろ?」

「さぁ…アタシの頃はパスタでしたよ…たしか…」

「そのスパゲティより前からの金持ちの家は、どんな感じだったの?」

「はい…おばあちゃんの召使いさんが応対してくれたんですけど、両親はいないみたいです、なんでも仕事の都合で、ほとんど家には帰らないようで、朝倉少年は、召使いさん3人と暮らしています」

「典型的というか、金持ちなんだね~何やって財を成したんだろうね~」

「調べますか?」

「うん…なんかさ~まぁ、俺が呼ばれるくらいだからさ、まともな事件じゃないんだよ、きっと」

「単にヒマそうだったからじゃないんですか?」

「だとしたら…キミもってことになる、所轄の刑事が場違いな京都へ飛ばされてんだぜ、無期限で」

「…言わないでください」

「また何かやったんだね…」

「言わせないでください…」


「でも、なんでミミズが気になったんですか?」

「さぁ?なんでだろうね?朝倉少年の足元にいたからかな?」

「はぁ?」

「発端なんて、そんなものなのかも…ね」

「わかりません」

「うん、風が吹けば、桶屋が儲かるってさ」

「朝倉少年の家は桶屋なんですか?」

「さて…何をどうしたら財を成せるんだろうね~桶屋になった理由は、何でも無いことだったんじゃないのかな」


 花田とビジネスホテルに泊まることになった相良。

「京都まで来たんだから…今度は風情ある旅館が良かったな~」

 狭いユニットバスの便座に座ってバスタブを眺める相良。

(朝倉…ね~、面倒くさいことになったような気がするな~)


『桜井 敦』とは関係ないと思いながらも、朝倉ユキという少年の雰囲気に、どこか重ねて見ている自分に苛立っていた。


 Tick…Tack…Tick…Tack…


 頭の中で時針が動いている。

 止まった時の事件を追いかけてきた、この4年間、自分まで止まったままだったような気がしていた、でも、間違いだった。

(俺の時間は止まっていない…動き続けていた…そのはずだ)


 タバコを深く吸い込んで煙を吐き出す。

 無言のまま白く揺蕩たゆたう紫煙に手を伸ばす。

 掴めなくても…掴んでみせる。


 相良は、無意識に咥えたタバコのフィルターを強く…強く…噛んでいた。


 ふとソレに気づいた相良

(電子タバコに変えようかな…)



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