第8話 狂騒(キョウソウ)
「ユキ、あんた、せめて学校では大人しくしててくれない?」
帰るなりロビーでビクニに呼び止められた。
「大人しくしてますよ」
「はぁ~…アンタ、テスト中に早退って…充分問題行動よ」
「そうでもないよ…僕がいないほうが学校で問題が起きない」
「屁理屈ね…」
「ヴァリニャーノに会った」
「そうみたいね、で?」
「何も…」
「何も無かったから、歩いて帰って来れた…それは解ってる」
「僕を保護してくれるそうです」
「フフ…その挨拶に?…保護ね…してもらえば?」
「考えておきます」
「そうね、ココでのメシが不味ければ他所のお宅で飼われなさい」
「アッチのメシも美味くはなさそうですが」
「アラ?そう…彼らは胃に押し込むように喰うらしいわよ」
「妖魔が人を喰らうように?ですか?」
「フフ…それにアッチでは馬の足以外にも色々与えてもらえるようね」
「へぇ~興味深いですね」
「コレ…見ておきなさい…おやすみ」
去り際にビクニがバサッとガラスのテーブルに置いた資料、部屋に戻って眺めた。
(甲羅…
異形の写真の数々。
(色々いるんだな…馬だけじゃないわけか…)
化け物に狙われながら、化け物に成りかけてる人を救って…
(面倒くさいな…)
時々思うんだ。
いっそ…夜叉丸を狩るだけに使えればって…。
「夜叉丸を完全に使役できなければ、あなたは、この先もただの人殺しね…生きていくだけで、何人殺すのかしら?」
ビクニに、かつて言われた言葉が頭を過る。
(使役ってもねェ…簡単にはいかないんだよ!!)
イライラして思わずスマホを壁に投げつけた。
バシッ!!
いい音がして床に落ちたスマホ。
「……さすがだな…傷一つ付いてない」
こういうことの一つ一つが僕を苛立たせる。
ビクニのバカにしたような静かな笑みが頭から離れない。
(クソッ!!)
幾度、夜叉丸の牙を向けようとしたか…10回?20回?とても数えられない。
なぜそうしないのか?
それだけじゃ物足りないような、気分が晴れないような、一瞬で引き千切っても満足できない、そんな気がするからだ。
どうしたら満足できる?
きっとビクニを殺したいわけじゃないんだ。
僕は、あの女を心の底から屈服させたいんだと思う。
殺そうと思えば殺せる。
その思いが逆に僕の殺意を抑制させている。
(殺意?………なのか?)
生涯、解りあうことなどないであろう人間、それがあの女『ビクニ』という存在だ。
もし…夜叉丸を僕の本能のままに暴れさせたらどうなるのだろう。
今でも操れてなどいない、辛うじてできるといえば夜叉丸を呼び出すこと、一度出現させた夜叉丸は僕の中に戻すには相当の集中力がいる。
あるいは…夜叉丸が暴れ疲れて戻るのを待つしかないのが現状だ。
つまり…それは、対象の死を意味している。
僕の中に巣食う、白い内なる獣は血を求めている。
そう思うと恐ろしくもあるのだが、僕の感情が高ぶれば今まで通り、僕の意思とは無関係に外に出て存分に牙を剥くのだ。
恐ろしいのに、なぜ僕の怒りに反応するのだろう?
夜叉丸は僕の恐怖には反応しない、怒りに反応する。
ビクニの使役しろとは、怒りを抑えろということだ。
僕の心でワナワナとした怒りが湧き立たなければ夜叉丸が勝手に暴れ回ることはないのだというのだ。
怒りの矛先が、例えばヴァリニャーノであれば…僕は別に、あの馬足にはムカつきはない、僕のムカつきの先は…ビクニだから抑えきれずにいるのだ。
「そろそろかしら…」
グラスのシャンパン、沸き立つ螺旋の泡を見つめるビクニが静かに微笑む。
「馴染めるといいけど」
(学校にも社会にも馴染めない、あの子が…ココで馴染めなければ行くトコないしね)
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