第9話 集団(シュウダン)
翌朝、ビクニに声を掛けられた。
「学校が終わったら第3会議室に来なさい」
「会議室?」
「そう…紹介したい人がいるの、いいわね」
「はい」
嫌いだ…だけど、ビクニには逆らえない。
それがどんな些細な事でもだ…。
僕は理解している。
ここに来てから3ヶ月、僕は飼い犬としての躾を施されていた。
(ここを出てしまえば行き場所なんてない…)
家には帰れない、帰っても無駄だ、門を潜る前に捕まる。
僕を喜んで迎えてくれそうなところ…一瞬ヴァリニャーノの顔が脳裏に浮かんだ。
どこか東洋系の面影を残す長身の白人男性。
(サジタリウス・ヴァリニャーノ…)
アイツが飼われている組織なら僕も飼ってくれるかもしれない。
馬足になるのはゴメンだが…。
(あの写真…)
ふいに思い出した。
資料にあったエラを持った男の写真、泳ぎの不得意な僕でもエラでもあればスイスイ泳げるのだろうか?
エラなら欲しいかも…な。
結局、テストなど回答もせずに半日、学校ではそんなバカなことばかり考えていた。
午後から施設に戻ると、僕が会議室に行く前、すでに正面ロビーにビクニがタバコを吸いながら待っていた。
「ちゃんと帰ってきたのね」
「どういう意味ですか?」
「どういう意味かしら?そうね…例えばココを逃げ出すなんて考えてるような…そんな気もしただけよ…それだけ…」
「まさか…」
とは言ったもののドキッとした。
(心まで読めるなんてこと…ないよな…まさか…だとしたら、今も?)
「行きましょうか、お昼を一緒にしようと思ってたの、そのほうが彼らとも打ち解けやすいかなと気を利かせたつもりよ」
そういうと意味あり気にフフフとビクニが笑った。
(彼ら?)
ビクニの後について会議室に入ると、会議室は立食形式でケータリングが用意されていた。
そして…男が2人、若い女性が1人視線を僕に向けた。
「ビクニ…そのガキが?」
奥の椅子に座ってコーラをラッパ飲みしていた細身の男がビクニに話しかけた。
「えぇ、いつぞや話した封魔師…の候補よ」
「候補…ね」
皿にパスタを盛っていた若い女性がバカにしたように笑みを浮かべて僕を観察するように見ている。
「ねぇ…キミ中学生だって?何年?」
長テーブルの端で麻婆豆腐を食べていた制服の少年が話しかけてきた。
「1年ですけど…」
「へぇ~正直なんだね、朝倉ユキ…成績は良くない、素行不良で~特に親しい友人もいない…キミ学校に馴染んでないんだね、僕と一緒か」
「知ってるくせに聞かなくてもいいでしょケン、丁度いいわ、そこの制服がケンよ、名うてのハッカー『GRD』って彼の事よ」
「GRD?」
「そう…グリーン・ラグーン・ドッグの略だよ、僕のハッカー名ね」
「緑の…何?犬?」
「ユキ聞いたら呆れるわよ…タヌキのことよ」
「緑のタヌキ?」
「そう…僕の大好きなカップ蕎麦さ、引き籠り同士よろしく」
「僕は引き籠ってはいない」
「教室か部屋かの違いだけだろ、大差はないさ」
「大分違うと思うけど…」
「ケンは情報収集担当よ、アッチの人相の悪いのがカイト、私と同じ戦闘員よ」
カイトと呼ばれた男はニヤッと笑って手に持ったコーラの瓶を軽く上に挙げた。
「口が悪いけど…腕は確かな剣士よ」
「で…アタシが後方支援のガンナー、キリコよ、ハンドガンからライフルまで銃と名が付けば何でも使いこなすわよ」
キリコは見せつける様にジャケットを捲ると胸の脇のホルダーに拳銃が収められている。
「銃より胸に目がいっちゃったかしら?」
「いえ…そんなこと…」
キリコの胸は大きくスーツのボタンを止め直すときにはキツそうに思えた。
「この3人と私…そしてアナタの5人がチームになるための顔合わせが今日の目的よ」
「はい…」
僕は、未だ封魔も出来ぬままで、このチームに組み込まれたのである。
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