浮かれた話の逆は事務的か?
さっぱり話が分からなくなった私は、順番に説明してくれるようにお願いした。
とにかく、さっきの小澤さんの言葉で、私の思う「最悪」にはならないらしいことはわかったので。
私が完全に話を聞く態勢になったことが伝わったのだろう。
小澤さんも居住まいを正し、改めてこう切り出した。
「そうね。どこから話そうかしら……ええと……私の書いた話が賞貰ったっていう話は?」
「うん、それは聞いてます……聞いてる」
「
「幕末の剣士の話って聞いてる。佐賀の方の……」
何故か江上が興味を持ってたのよね。小澤さんの小説。
じゃあ、読んだのかって聞いてみると、読んでないって言うから、江上のやりたいことはよくわからない。
とにかくそんな事情で、私は小澤さんの小説の概略だけは何となく知っていた。
そして小澤さんは、それで十分だというように頷いて見せる。
「そうなのそういう話。それで、あっちを書き始める前にもう一つ書きたいと思っていた話があったの。どっちを書こうかな、って迷っていて、編集さんに言われて剣士の話を選んだのよ」
へぇ、そんないきさつがあったのか。
江上が喜びそうな制作秘話、みたいな感じ。私がそのままその感想を口にすると、小澤さんは少し照れたようだ。
「そんなにたいそうな話じゃないと思うんだけど、とにかく賞を貰ったのは嬉しかったわ。何というか、あの本があれば自己紹介も簡単になるし」
「そういう効果もあるんだ」
何だか、本当にレアな話を聞いている気になってきた。
だけど話は進んでないね、これ。
「それでね。編集さんとの約束で、見送った方の話があるでしょ? それを書いても良いって話になって――」
小澤さんも話が進んでないことを気にしたのか、一気にそこまでまくし立てた。
話が前後してるけど、
――編集に言われて剣士ものを書いたけど、今度は自分の書きたいものを書けるようになった。
と、いう事なのだろうと解釈しておく。
「――それは、うちの学校のサッカー部の話なの。より細かく言うと菅野君の話」
……はい?
いきなりおかしな話になってないだろうか?
幕末の剣士の話と、うちのサッカー部の話?
どうしてそれが並んでしまうんだろう? いや並べて悪い法は無いんだろうけど、小澤さんの頭の中はどうなっているのか?
何かしら賞を貰う人って、やっぱりどこか違うみたい――と傍観できるなら、それはそれで楽しいのかもしれないけど、そうもいかない。
小澤さんは「菅野君の話」とまで言ってるんだから。
それなら、どうしたって陽子ちゃんにも関係のある話だ。菅野のそばには陽子ちゃっがいるわけだし。
だからこそ小澤さんは陽子ちゃんに会いたいんだろう。そうなると、私もこのまま知らんぷりもできないって事になる。
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