専門用語の問題点

 私は当たり前に、説明を続けてくれるようにお願いする。

 特に菅野関係について。


「それは西村さんに伝えてくれたら、それで済む話のような気がするんだけど――」


 何だかいきなりケンカを売られたような気がする。


「――菅野君のコンバートに興味があって」

「なんだって?」


 いきなり小澤さんが謎の言葉を発した。

 上位古代語、というわけでは無いらしいけど、さっぱり意味が分からないという結果は同じだ。


 英語っぽいけど。


 ところが、そんな上位古代語(仮)を発した小澤さん自身が、私を見据えながら熱心に頷いてる。


「そうなのよ! どうして難しく言うのかしらサッカーって。最近だと“ビルドアップ”とか”アンカー”とか……」

「それ全部、サッカー用語なの?」

「そうみたい。それでコンバートって言うのは、今までやっていた”ポジションが変わる”って意味みたい」


 ああ、そういってくれれば何となく理解できる気がする。

 そういえば陽子ちゃんが、今まで菅野はフォワードだったのがミッド何とかに変わったとかなんとか言ってたような……。


 なるほど。

 それで陽子ちゃんなら、わかるって事なんだな。


 私がそうやって納得してる間にも小澤さんの愚痴が止まらない。


「そもそもルールだってよくわからないのよ。特に『オフサイド』って、いったいどういうルールなの?」

「それは私もそう思う。オフサイドって、意味もなく“無し”にしちゃうよね」


 「オフサイド」ってルールは何だか、盛り上がってるのに水を差すためだけのルールにしか思えない――じゃなくて。

 小澤さんまで、そんな状況でいいんだろうか? いや良いはずはないと思うんだけど。何しろサッカー部の小説を書こうとしてるわけで。


 それなのに、そんな理解の仕方で、なぜサッカーの話を書こうと思ったのか。

 これがさっぱりわからない。


 ……小澤さんと声がそっくりな戸松さんはサメが怖すぎて、逆にサメに詳しくなってやろうとするメンタルの持ち主だと聞いている。

 もしかして小澤さんもそういうメンタルの持ち主?


 いやいや、声が似ているからって、同じメンタルなんて理屈はない。

 というか、完全に私の考えがあっち向いてるな。


 けれどもそれが、きっかけと言えばきっかけになったのだろう。

 そのまま小澤さんに押し切られるきっかけ、という意味だけど、きっかけであることに間違いはない。


「じゃあ、考えてみて。とにかく私は取材したいから」


 そう言われて私は「これ以上何を取材するのだろう?」という疑問と、「小澤さんには確かに取材は必要だよなぁ」、という諦めが同時に襲い掛かってきた。


 それでも何とか「考えてみる」と答えて安請け合いしなかったことは、自分でもよくやったと思う。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る