犬も食わない
どうやら菅野と小澤は徹底的に相性が悪いらしい。
並べてみれば確かに見た目は絵になるかもしれないけれど、本当にそれだけだ。
これでは百年待ってみても、この二人がくっつくことなんてことは無いだろう。
それに加えて、菅野もどうやら陽子ちゃんが好きらしいという事も判明した。つまり両思いだ。
「幼馴染みはオフサイド」
という、常人には理解しがたい考え方で、その好きという気持ちを抑えているようだけど、その理由を改めて考えると、
「自分ばっかりでは無く、他にも可能性があることを考えて欲しい」
という事になると思う。
しばしば陽子ちゃんが言われる「視野を広く」という言葉と同じような意味だ。
となると、菅野もまた陽子ちゃんをよく見ていて、その辺りに問題があることに気付いていることになる。
この考え方は「幼馴染みはオフサイド」という言葉に対しての私たちの解釈についても裏付けすることにはなると思う。
これらを総合すると菅野は陽子ちゃんを大事に思っていて、自分はむしろ陽子ちゃんを邪魔している――という感じの心境なのではないかと。
……これは多分、希望的観測という奴では無いと思う。
そう考えてみると、菅野の今までの態度も、何となく説明できる気がするからだ。
説明する前に「ものすごく不器用だけど」という言葉を付け足さないとダメだけど。
けれど、こんなに不器用でサッカーは大丈夫なのかな?
関係ないのかもしれないけど。
そんな推測を、いよいよ終わりが見えてきたノートの写しをリズムよく片付けながら、小澤に説明する。
小澤は態度悪くそっぽを向いて、つまり片耳だけをこっちに向けて、今度は黙って聞いていた。
さっきの暴走は、小澤なりに思うところがあったのだろう。
多分。
そして私は貸してもらったノートをまとめながら、
「――となると、別にこれ以上何かしなくても良いんじゃないのか? って思うのよね。むしろ理想的じゃない?」
両想いらしいことは、多分だけどわかったわけだし。
そうなると下手に手を出す方が逆に二人に、というか陽子ちゃんに迷惑かける気がするのよね。
「……でもそれじゃ、二人がくっつくまで、いいえその後もしばらくは周りがうるさいままだわ」
そんな私の方針に小澤が、隠そうともしない自己中心的な考え方でダメ出しをしてきた。
だから私の答えは決まり切っている。
「あんたがどうなろうがしったこっちゃない」
小澤に親切にしてやる理由は無い。
小澤もそれは理解していたのだろう。続けて、こう言った。
「菅野君の気持ちはわかったとしてもよ? 今でも西村さんが前と同じ気持ちかはわからないでしょ? それなら周りがうるさいままってのは面倒だと思うんだけど」
う……それは、そうかも。
痛いところを突いてくる。
「だから、あなたは西村さんに確認すべきだと思う。今でも菅野君が好きなのかって? ずっと西村さんは菅野君を避けているわけだし」
私は借りたノートを持ちながら立ち上がる。
そして、
「わかったわよ」
とだけ、短く返した。
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