陽子の想い

 ――やってみる。


 なんて言ってはみたけども。

 いや、それを無しにしようってわけじゃないんだけど、あの日って金曜日だったのよね。そこで改めて陽子ちゃんに休日に会いに行くのも、なんか違うというか。


 後ろめたさがあるというか。


 そこで江上と加奈に、これまでの事情説明を行いつつ、今、陽子ちゃんはどんな様子なのかを聞き込むことにした。スマホ経由で。


 事情説明についてだけど、私と小澤が菅野を呼び出して、それがどういう結果になったのか二人は知っていた。大体のところだけど。

 というかこの二人が特別に耳が早いというわけじゃなくて、学校中に知れ渡っているらしい。


 ということは、金曜日に何だか静かだったのは遠巻きに見られていただけか。

 金曜日はずる休みの埋め合わせで、二人とダベる余裕は無かったことは……幸いだったのかどうか。


 でもそれで特に聞き込むこともなく、陽子ちゃんの様子も噂になっているようで、その辺りを二人から教えてもらった。


 といっても、「元気がない」とか「大人しい」とか。

 それに「廊下を走らない」とか。そういう噂があるばかりで、特に「何かを言っていた」という感じは無いらしい。


 ただこれは……? それは私の逃げだとは思っていたけど、もしかしたら本当に?


 と、思うところがあったので、さらに突っ込んで聞いてみると、古尾は「走るのをやめた」と単に喜んでいる感じでもなく、普通に心配しているようだと。


 神幸先生は準備室から出てきて、陽子ちゃんと一緒にいる誰かと無差別にジュースを奢ってみたりとか、先生といえば遊野先生もまるでちゃんとした養護教諭みたいに声を掛けたり。


 そんな話が伝わってくるのだから、やっぱり陽子ちゃんは……何と言うか危なっかしくはあるのだろう。

 月曜になったら、二人以外にも話を聞いてみようとは思うけど、とにかくこれで方針、というかどう声を掛けるかは決まった。


 何だか再生利用という感じはするけど、まだこっちの作戦を実行してる可能性もあるし。

 とりあえずはこれだな――。


                ~・~


「――陽子ちゃん、今でも例の作戦をやってるの?」


 私は、そう陽子ちゃんに確認してみた。

 流石に決心通りに、会いに行ってすぐにこう切り出すことは出来なかったけど。


 学校を休んでいたりしてたので、心配かけてごめんなさい、は外すことがやっぱりできない。

 だからこの確認を切り出すハードルが上がってしまったわけだけど、それは仕方がないだろう。


 それにとにかく切り出すことは出来たんだから。

 

 ただその切り出し私が陽子ちゃんに会った放課後の廊下。その空気がにわかに緊張する。

 どうやら土日をまたいでも、学校は未だに臨戦態勢のままのようだ。


 陽子ちゃんは、そんな空気に気付かないままなのか、


「作戦って?」


 って返してくる。


 似合わない笑顔を浮かべながら。

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