時間稼ぎの目的

 時間稼ぎの目的は、菅野がいよいよ追い詰められるまで……という狙いもあるにはあるんだけど、それはあまり本命では無かったりする。

 何より時間がかかるのは小澤が嫌がるからね。


 時間がかかることを嫌がる小澤――締め切りでも抱えているのかもしれない。

 小説家ってそういうものだと思う。詳しくは知りたくないけど。


 もっとも、私としても、このまま菅野をいじめる感じ以上にならないのは、問題があると思っている。

 このままだと陽子ちゃんにずっと追いかけられてるわけで、これがなかなか面倒ではあるのだ。


 捕まったところで、今の「陽子ちゃん、突然モテ期突入」をやめるつもりはないし、陽子ちゃんにしても難しいところだろう。

 いきなり「薫ちゃんが、悪だくみをしている!」とは訴えにくいだろうし。


 何しろその悪だくみの理由が、陽子ちゃんの菅野への想いに関係してるとなると、まず説明の段階でつまづくに違いない。

 ……小澤が感染したような手口だけど、この際仕方ないだろう。


 そして時間稼ぎの本命。それが芽を出したのは、思ったよりも早かった。

 それはこんな形で姿を見せる。


 即ち――。


 ――「帝際大付属が来る!」


 という報が学校に知れ渡る形で。


 帝際大付属、だけでは訳が分からないだろうけど、この場合簡単に説明するなら、隣県のサッカー強豪校とだけ理解してくれればいい。

 私も小澤に説明された時、


「それだけわかってればいいのよ」


 と言われたので、不都合があるなら全部小澤のせいという事で。


 というわけで、この帝際付属が学校にやってくるのも小澤の仕掛けだ。

 どういうコネでそんなことが出来るようになったのか……。


 あ、ちなみにの話だけど隣県とは言っても距離的には、そんなに離れていない。

 路線バスで二十分ぐらいで行き来できる。


 そういう意味では特別感は希薄なんだけど、今帝際付属には新庄……という名のエースがいるらしい。あ、もちろんサッカーのね。


 確か……トップ下とか言ってたっけ。

 どういう意味かは分からないんだけど。


 そのよくわからないのが菅野とライバル状態で、色んな意味で注目の対決になる――らしい。

 この小澤の説明にはピンとくるものが無かったけど、


「あ~、それはちょっと見たいかも。今度の日曜だよな?」


 という江上の言葉で、この対決が大したものであることは理解できた。

 もっとも理解する必要は無いのかもしれないけど。


 何しろ私よりもよく理解できてない連中でさえ、はしゃいでいるのだから。要は菅野の格好いいところが見れれば問題ない。そういう事なんだろう。


 そんなわけで、陽子ちゃんが追いかけられて、私が追いかけられて、そうこうしている内に日曜日が来た。

 

 おそらく決戦。

 もしかしたら、最後のチャンスかもしれない。

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