追われ追われて

 復活。

 復活である。


 学校を駆け巡る陽子ちゃんの足音が。


 これで悲鳴までが響き渡ってしまうと確実に事案だけど、そこまでの事にはなっていない……と思う。

 いくら何でも、学校中すべての様子はわからないし。


 ただ今、陽子ちゃんが走っているのは、まず間違いなく古尾から逃げるためなんだろう。


 陽子ちゃんが走り、それを古尾が追いかける。

 前と変わらないようにも思うけど、確かに微妙な差がある。


 その差が、学校に新たな火種を提供しているのは間違いないところだ。

 今までは、陽子ちゃんは菅野にべったりだったから隠していたが、それがダメになったので、古尾が動き出したに違いないと。


 別に古尾が下野紘ボイスで「好きじゃああああ!」と叫びながら駆けずり回らなくても、噂が勝手に駆けずり回ってくれるというわけだ。


 さらに神幸先生の動きも噂になっている。

 準備室から出てきて、とにかく陽子ちゃんに缶ジュースを奢ろうとする。


 ……まぁ、言ってしまえばそれだけ。

 前とあまり変わらない気もするけど、見方が変われば、何事も疑わしく見えてくるというものだ。


 この辺りは、見事に作戦成功という気もする。

 あくまで「気がする」レベルなのは、サッカー部の様子は相変わらずわからないからだ。


「ああ、それなぁ。なんだか揉めてるって、陸上部の奴が言ってたぞ」


 知りたいのは菅野の様子だったけど、その情報もありがたい。

 増本と箭内が、キチンと小澤に唆されているようだ。


 古尾を説得するのに、江上と加奈に応援を頼んだから、その辺察してくれて助かる。やっぱり考え直して二人を巻き込んだのは正解だったようだ。


「……で、あんたは何をしてるの。でかい身体をそんなに丸めて」

「決まってるでしょ。隠れてるのよ」


 いつもの放課後。

 そう久しぶりの「いつもの放課後」なのだ。


 だけど私は「いつもの」というわけにはいかなかった。

 何しろ今は陽子ちゃんに見つかるとヤバい。


「それじゃ、私たちと一緒に居たら意味がないでしょ」


 呆れたように加奈が追求してくるけど、結局どこに隠れても見つかるんだから、ここで「いつもの」をしながら、作戦の進行具合を確かめるのも……つまり効率的って事だ。


「薫ちゃ~ん! いるんでしょ~!!」


 あ、ついに悲鳴が混ざり始めた。

 だんだん近づいてくる。


 言うまでもない事だけど、この陽子ちゃんの環境の変化はあっさりとばれた。黒幕が私だってことも。……小澤ってことまではばれてないとは思うけど。


 とにかく時間稼ぎのために、今は逃げ続けるしかない。


「それじゃ。陽子ちゃんには上手く言っておいて」

「どう言ったら“上手く”いったことになるのか、わからない」


 なんて、江上の声が返ってくるけど、とにかく今は逃げなくては!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る