作戦決定

 それは……ないな。陽子ちゃんがわざとあの場に現れないなんてことは思いつくことも出来ないだろう。


「あなたが微妙に責任逃れしてるだけよ。そういう考え方は。西村さんが元気が無いのはその作戦のせいなんだって」


 そう指摘されると、私はぐうも出ない。

 確かに、そういう狡さがあったことは否定できないのだから。


 そして小澤はそのまま続ける。


「とっくにやめてると思うわ、その作戦は。何かがあったのよ……何か決定的な何かが……」


 それは……あるかも。

 

 私があの屋上での光景を目撃してしまった事で、勝手にそれを解釈して、引きこもってしまったような……。


「……やっぱり菅野君に話を聞かないとね。決定的な“何か”を聞きだせるのかはわからないけど、今の西村さんの状態で菅野君はそれで良いと思っているのかしら。サッカー部の雰囲気もわかってないはずは無いと思うんだけど」


 やっぱり、最初にとりかかるべきは菅野へ問いただすことになるのか。

 ……多分私は、これからも逃げようとしてたんだな。我ながら情けない。


「じゃあ、何とか菅野君を呼び出してみるわ。それに同席して」


 だから小沢がそんなことを言い出しても、もう逃げよう、という気持ちは封じ込めた。それを確かなものにするために、


「……わかった」


 と、自分に言い聞かせるように返事をする。

 そうして覚悟を決めたせいなのだろう。小澤の言う事に少し引っかかった。


「同行じゃなくて、同席なんだ?」

「ああ、あなたには準備が整うまで学校には来ないで欲しいから」


 私の確認に小澤がそんなことを言い出した。


「な、なんで?」

「菅野君にプレッシャー与えるためよ。あなたは西村さんの友達って事で認識してるんだろうから、いきなり現れたらこれはプレッシャーになるわ。あなた背が高いし、猫背だし」


 それに意味があるのかはわからないけど、素直に頷いておく。何となく罪滅ぼしの心境で。……おばあちゃんが怖いけど。


 けれど、そんなに上手くいくものだろうか?

 それに、さっきは確かに私が一緒にいて、それが学校中に広まることで、今の雰囲気が変わるという話じゃなかったっけ?


 その辺りを確認してみると、小澤が再び「幼女戦記」の時の悠木さんの声で、


「――大丈夫よ。全部が上手くいかなくてもいいんだから。いえ、むしろ上手くいかない方がいいのよ、こういうことは。それも考えてるから」


 なんて普通なら頼もしく感じるような言葉を口にした。

 つまり頼もしさを感じる前に、空恐ろしさを感じたわけだけども。


 私は何とか、


「……そ、そう」


 とだけ、短く答えるだけで精一杯。


 けれど、これで何とか話はまとまった。

 夕食前に。

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