とっさには判断できない状況

 一瞬、改めて自白を始めたのか? とも思ったけど、ここまでの言い争いで疲れてはいたんだろう。反射的に答えることが出来なかったのが幸いした。

 それか逆に脳が冴えたのか。


 小澤が菅野を呼び出す光景を想像して、すぐに「あ、これはだめだ」と気付くことが出来たのだから。

 どう考えても、学校に燃料が投下されるのと変わらない。色んな噂があっという間に燃え上がり拡散してしまう。


 ただ、そういった小澤の動きに私がくっついって行ったら――ええと、どうなるんだ? よし、小澤に説明させよう。

 私がそれを促すと、小澤は心得たとばかりに胸を張った。


「サッカー部さえ、矛を収めてくれればとりあえずは何とかなると思うのよ。そのためにどうすべきかを考えると、西村さんとは“友達”のあなたが菅野君を責める形になれば有効そうじゃない?」

「いや、待って。そもそもあんたと一緒に行動するのが私にはリスキーなんだけど」


「私と一緒になって西村さんを裏切ったように見られるからリスキーなのであって、それが菅野君を責め始めたら、周囲も判断に迷うでしょ?」

「それならあんたはいなくても良いんじゃないの?」

「私抜きで? あなたが? 菅野君と?」


 それは驚きだわ、と表情だけで煽られてしまったが、私が単独で菅野と対決するのは……確かに想像できない。

 それなら、とりあえず菅野に対する作戦としては受け入れた方が良いのだろう。


 何よりこれなら、小澤に巻き込まれただけ、という状況よりはマシなはずだ。

 ただ、そうして菅野の反応を想像してゆくと、それよりももっと重要なことを忘れていたことに思い至った。


 陽子ちゃんはどう思うか?

 いや、今の陽子ちゃんはどんな様子なのか――。


「それは、わからないわよ。それを私が詳しく聞くわけにはいかないんだし。ただまぁ、随分元気がないらしいことは伝わってくるわね」


 小澤に聞いてみたけど、学校の中がそんな雰囲気ならそれ以上はわからないだろう。陽子ちゃんが菅野のそばにいることを納得いってない誰かから「陽子は元気がない」なんてご注進されることも、小澤には負担がかかっているに違いない。


 流石にそれに対して「いい気味」とは感じないんだけど――。


 陽子ちゃんが元気がない、つまり「大人しい」のなら、陽子ちゃんは今も私たちの「作戦」を実行しているだけなのでは? 

 それが、余計に事態をややこしくしているのかもしれない。


 今更小澤に隠す必要は無い、と判断して私はその辺りも小澤に説明する。

 それを聞いた小澤は「そんなことを……」と、呆れたように応じ、そのあと真剣な表情になって、少し考えた後――。


「――それは無いと思う。それじゃあ、あの屋上のフットサル場に西村さんが現れなかったのも、その作戦の一環だって思うの?」

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