陽子の役割
「具体的……そうなのよ。私も具体的にしたいのよ、その辺りを」
私の要求に対して、小澤は独り言みたいに呟いた。
「あ、その辺りはまだ取材できてないのか」
「そうよ。結局、西村さんとは話せてないし。最初は西村さん抜きで話を聞いた方が良いかと思って……」
「それってどういう事?」
陽子ちゃんを仲間外れにするつもりなら黙っているわけにはいかない。
私が問いただすと、小澤は手をひらひらさせた。
「あ~、あなたが心配するような理由じゃないから――そうね。簡単にでも説明した方が早いか」
随分、頼りないことを言い出したけど、それにわざわざちょっかいを入れても仕方ないだろう。私は小さく頷いて、先を促した。
すると小澤も覚悟を決めたのか、スムーズに話し始めた。
「――西村さんって、顔が広いみたいじゃない? それに可愛いし、みんなの人気者って感じで。コミュニケーション能力が半端ない感じで」
それには全面的に同意するしかない。
「で、そういうのがね。サッカー部でも発揮されて、その恩恵を受けたのが菅野君ってわけ」
「……それはなにか関係あるの?」
「あるみたいね。部員間でのコミュニケーションがサッカーでは重要なんですって。それで西村さんは、部員の情報伝達を仲立ちして、そういった情報を聞いて、菅野君の視野が広がった、みたいな?」
「それは……」
皮肉さを感じてしまう。
陽子ちゃんは「視野を広く」なんてアドバイスされてるのに、その陽子ちゃんのおかげで菅野の視野が広がったなんて。
私がそれに不条理さを感じて黙り込んでいると、それに構わず小澤は先を続けた。
「で、視野が広がった、は、そのままグラウンドでの視野も広がったらしくてね。前はシュート打つことしか考えてないみたいなプレイだったけど、それがポジションが変わって……まぁ、そんな感じ」
取材不足ぶりが、露骨に窺える雑な締め方だけど、何となくは繋がった。
つまり陽子ちゃんを後回しにするのは――。
「サッカー部がみんな陽子ちゃんを褒めるのね? それを陽子ちゃんは嫌がるかもしれないから、別に話を聞きたいと」
「そこまで説明しなくて済んで助かったわ」
嫌味半分、本音半分で小澤は私の言葉を肯定した。
ただそうすると……。
「ねぇ、菅野は? その話だと菅野は陽子ちゃんに感謝してないとおかしいでしょ?」
「恩があるから付き合うべき、なんてのは私は乱暴だとは思うんだけど――」
それは確かにそうだけれども!
「――それがよくわからないのよね。だから私も問い詰めたいと思ってるわけだけど、今の学校の状態ではそれもね」
「あ、ああ、何かするつもりはあるのか」
「あるわ。だから、あなたを巻き込みに来たんだし」
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