サッカー部の世界

 仕切り直し、というつもりはなかったが、みたらし団子をこれ以上放置するのも忍びない。それにお茶も冷めてしまった。私なんか一滴も飲んでないんだけど。

 そこで、改めて準備する必要があって、流れ的に仕切り直しになってしまった。


 長い間、話し込んでいた気もするけどここまでで一時間と言ったところか。

 これ以上小澤がいるなら「夕食もご一緒に」なんてことになりかねない。それは避けたい。


 小澤もそれは避けたいだろう。

 手早く済ませることについては異論はないはずだ。


 ……しかしこれ、どうなったら“済ませた”ことになるんだ?


 そう思い首を捻りながら部屋に戻ると、足を崩した小澤が声優雑誌をじっと見つめている。読んでいる、では無くて見つめている。

 ……これは下手に口を出さない方が良いな、うん。


 私は温め直したお茶を差し出しながら、


「――で、サッカー部は様子が違うわけね。学校のような雰囲気じゃないと」


 と、半ば強引に話を再開させた。

 小澤は小さく頷いて雑誌を閉じると、


「そう。サッカー部は菅野君と西村さんは付き合っていると思っていたみたい。付き合ってるかどうかなんて、わざわざ聞くのもバカらしい、みたいなレベルで」


 と、衝撃の発言。

 思わず「え?」と声を上げた私は、以前の陽子ちゃんの言葉を思い出す。


「――二人は正式には付き合ってないって聞いたよ」

「だから、サッカー部はそれをわざわざ確認してないんだってば。例えば『付き合ってるのか?』なんて確認してみなさいよ。二人にちょっかいかけるつもりがあるのか? って総スカンだから」

「で、あんたが今、その状態ってわけね」

「――そうよ!」


 言い返してきているけれど、これはなかなか辛いだろう。

 辛い状況でも、これだけ情報を集めたわけだから、責められてはいるもののサッカー部の中に情報を漏らしてくれる誰かはいるのかもしれない。


 猫を被っている甲斐があるというものだ。

 

 けれどそうなると――


「菅野についてはわかるんだけど。エースと聞いているし、慕われているのかもしれない。それで陽子ちゃんは? サッカー部で歓迎してるの?」

「だから、最初に言ったでしょ? 西村さんは菅野君のコンバートについても重要なキャラクターだって」


 ……キャラクターって。

 小澤の次回作の構想と現実が混じり始めているようだ。


 だがそれを指摘しても意味が無いし、それより先に聞いてみたいことがある。

 私はそれを、小澤に直接ぶつけてみた。


「重要とだけ言われても。もう少し具体的にはできない? コンバートにどう関わりがあるの?」

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