心が言う事をきかない

 一気にそこまで言ってやった。その気になれば、私もこれぐらいの早さでしゃべることは出来る。加奈や江上と戦うためには必須スキルだからな。

 ……そういえば二人はここにいるのかな? いや、それはないか。


 その二人の代わりというわけでは無いけれど、周囲の視線だけではなくてスマホが奏でる音までもやかましい。この店には学校を代表するエージェント達が集まっているようだ。


 小澤はここまで計算済みなんだろうな。

 こういう感じで学校に「真相」が知られてゆくのが。


 ただそれを確かなものにするためには、ここからの菅野の返事にかかっている気がする。

 元々、かなりあやふやな質問だ。果たしてなんて答えるのか……。


「……あれは睨んでいたのか。じっと見られていたは覚えてる」


 それは小澤にとっては、理想的な答えではあるのだろう。

 これで確実に自分の無罪が確定されるんだから。


 だけど……だけどさぁ。


「いや、あの、それはわかったけど、あの時点で陽子ちゃんは遅れてきてるんでしょ? だからさっきも言ったみたいに心配とかは? 陽子ちゃん、遅れてくるような人じゃないでしょ?」


 菅野のあんまりな態度に、私は思わず問いただしてしまう。

 けれど菅野は慌てる様子も無しに、逆に私に尋ねてきた。


「ああ……君が中島さんか。下の名前は“薫”で合ってる?」

「え? う、うん。さっきも自己紹介したと思うんだけど。名前は……言ってなかったけど」

「陽子の話によく出てくるから」


 そう言って菅野は手元のコーヒーをじっと見つめる。

 うう、なんだかマイペースが過ぎるような。


 それにこの声は……内山昂輝さんのような、島﨑信長さんのような。

 内山さんの場合は、陽子ちゃんに勝ち目はあるかもしれない。「ニセコイ」的に。


 でも、「ニセコイ」の時の声では無いし、今はどっちかと言うと島崎さんに聞こえるわけで……じゃなくて!


「それは良いから、陽子ちゃんに連絡とか考えなかったの? 心配じゃないの?」

「それは……」


 私の重ねての質問に、菅野は口ごもった。

 という事は、何かを誤魔化そうとしていたって自覚はあるのか?


 私はさらに畳みかけた。


「学校でも、陽子ちゃんとほとんど話してないし会ってないって。学校の外では会ってるかもしれないけど……」

「いや、会ってない」


 そこを答えて欲しいんじゃなくて、そういう自分の対応に問題があるとかは思わないのか菅野は。

 いや、流石にそこに問題があるのはわかってるんだろう。


 それを誤魔化そうとしてるんだから――これは本気で陽子ちゃんが嫌いなのかも。

 もしそうなら……。


「――それはどうかと思います」


 突然、小澤が声を出した。

 この声――大分怒ってる。だから悠木さんの声に聞こえる。

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