幼馴染みはオフサイド
「色々お話聞いたり、実際にサッカー部の方たちにお話し聞かせてもらったりして、私は感じたんですけど、西村さん、サッカー部の中としても大事なんですよね?」
微妙に小澤が被っている猫の皮がズレている。
けれど、この場ではそれも有効だろう。
周りに陣取っていたサッカー部からは、声になっていない声援というか、後押しを感じることが出来たのだから。
突き上げる腕や、ただ頷きまくるだけでこんなにうるさくなるってことは新しい発見かもしれない。
私は横目で見てるだけなのになぁ……。
一方で、菅野の方は相変わらず静かなままだ。
小澤が背の手を緩めないなら、この先言われることも予想できるだろうに。
「恩人――と言う言い方は大げさかもしれませんけど、少なくとも菅野君が無視するようなことがあってはいけないじゃないかと思います」
うん。
まさにその通り。
小澤の取材によればコンバートについても陽子ちゃんが力になっているらしいし。で、菅野はコンバートしたことによってサッカー選手として成長したとも聞いているし、それなら――
「――幼馴染みはオフサイドだから」
不意に菅野がそんなことを言い出した。島崎さん――というか内山さんに似た少しハスキーな声で。
いや、そうじゃなくて。
オフサイド? あのわけのわからないルール? それが幼馴染み?
どこから手をつければ理解できるのかも見当がつかない。
それは小澤も同じのようで、私の横で何度も瞬きを繰り返している。
そうだろ? わけがわからないよな?
だけど菅野はそれで十分だとでも思ったのか、そのまま立ち上がりコーヒー代を置くと、そのまま行ってしまった。
私たちは呆気にとられすぎて、とっさに声をあげる事さえできない。
菅野の後には、サッカー部をはじめとして、うちの学校の生徒がぞろぞろとついて行くけれど……。
「オフ……」
「……サイド?」
私と小澤は、動けずに二重の意味で謎になってしまった「オフサイド」という単語を二人掛かりで繰り返す。
「オフサイド」……謎のルール。
菅野が私たちの追求を躱すために、適当に言ったのなら、それは成功したと言っても良いと思う。
だけど菅野は私たちが「オフサイド」がわからないという事は知らないはず……いや、それは重要じゃないのか?
それに組み合わされた「幼馴染み」という言葉は一体……?
幼馴染みとは陽子ちゃんの事だともうけど……。
「……とにかく宿題にしない? オフサイドの言葉というかルールを理解しないとダメだわ、これ」
「……あんたも意味があると思ってるんだ。菅野が適当に言ったんじゃなくて」
迷走する私に小澤がそんなことを提案してきた。
釈然としないが、菅野の言葉には何か意味があるらしいという感触も同じではあるらしいし……。
私は仕方なく、小さく頷いた。
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