理解に苦しむ

 例えば一晩じっくり取り組んで理解しようとしたけど、それは出来なくて。

 そんな状態で「あと一週間あげる」と言われても、それはどう想像しても絶望しか感じないだろう。


 それが「オフサイド」というルールだった。

 

 理解しようとする私の苦しみを何とか文章にしようとは思うんだけど、それも無理だ。ルール解説ではキーパーとパスを受ける選手との間に云々、とか簡単に説明してるけど、全然簡単じゃないからな。その辺りはルールに自覚して欲しい。


 その上でセンターラインがどうこうとか。

 その場合、オフサイドにはならないとか。


 そんなこと自由に決められるなら、最初からオフサイドなんかやめてしまえ、という恨み言で一杯になる。


 けれど、わからないと言って投げ出すのも悔しい。

 なにより、陽子ちゃんがそれに関わっているのなら、何とか理解しなくちゃ……これで菅野が適当言ってるだけなら、本気の殺意が芽生えてくるところだ。


 ただ、陽子ちゃんの事を強く思ったことで、発想の転換ができることに気付いた。

 サッカーのオフサイドを理解する必要は無くて、理解するべきは「幼馴染みはオフサイド」という言葉の意味を理解すればいいということに。


 あくまで陽子ちゃんを中心に考えればいい。


 そこで「幼馴染みはオフサイド」という謎の言葉を、わかりやすい言葉に翻訳してみると「幼馴染みは反則」という事になる。

 陽子ちゃんが反則だと!? と、始まりだした深夜アニメのOPを聞きながら怒り出しそうになったけれど何とかこらえる。


 そこから、


 ――なぜオフサイドというルールがあるのか? 皆が何故あのややこしいルールを守ろうとしているのか?


 とまで、発想が飛んだのはラッキーだったのだろう。

 そしてその発想に身をゆだねると――。


「とにかく、ズルは良くない、という理由みたい」


 クラスメイトから借りたノートを整理していると、小澤が乗り込んできた。

 ずる休みの代償は大きく、身動き取れない私に向かって、最初からこうだ。


 小澤の事だから、もちろん私がずズル休みの負債でてんやわんやになっていることは当然察しているだろう。

 猫を被るつもりがあるなら、


「同じクラスだったら良かったんだけど。ノート手伝おうか?」


 ぐらいは言っていたに違いない。

 それが出し抜けにこれだ。


 けれど幸いと言うべきか、よく頑張った私、と言うべきか。

 それと同時に腹立たしいものがあるけど、小澤の言葉に私はしっかりと頷きを返すことが出来た。


 「オフサイド」が何故必要なのかと言われれば「ズルは良くない」。

 その一言に尽きるだろう。それを別の言葉で言い換えるなら――。


「――あのルールが無いとサッカーが面白くなくなるって事だね」


 今度は小澤が、私の言葉にもっともらしく頷いた。

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