想定内と想定外

 名古屋発祥の喫茶店は、きちんとプライベートが保たれるように設計されてはいるんだろうけど、それは客のモラルと協力して保たれていることがよくわかる。客の方に遠慮が無ければ意味がなくなってしまうからだ。


 それがよくわかった。

 そして、どうして人間は視線だけは感じてしまうのだろう?


 そして私と同じぐらい視線を集めている菅野は平然、というか何も感じていないように見える。こんな感じのキャラなんだ。

 小澤がここまで連れてきたはずなんだけど、それが簡単だったのか、苦労したのかもわからない。


 菅野は壁際に設置されたソファーに腰を下ろし、私と小澤はその正面に二人並んで椅子に座っている。いつかのファーストフード店で、陽子ちゃんと小澤と会わせた時と同じような感じだけど、つまりは状況が似ているってことなんだろう。


 で、私の前で感情の見えない顔で座っている菅野を見ていると、どうしても「潔癖男子!青山くん」の青山君、思い出すのよね。サッカー部だし表情に乏しいし。

 ……となると声は置鮎龍太郎に似てるという事になるのだろうか?


 うっ……。


 横の小澤から肘でつつかれた。

 わかったってば。もう私の前にもカフェオーレが来たから、店員さんも近付いてこないだろうし。……周りは知らないけど。


「――あ、あの、これが最初の質問というか確認なんだけど日曜の事なんだけど。サッカー部でフットサル場に行ったわよね?」


 今更感がすごいけど、これは小澤と打ち合わせ済みだ。

 まず、他にも目撃者がいるという前提で、その実情を学校中に知らせるために、この確認から切り出すことになっている。


 ……ということは、この菅野との面会を小澤は意図的に漏らしたんだな。これが上手くいかない方が良い、のパターンか。

 こっそり視線だけで周囲を探ってみると……あ、多分サッカー部も来てるな、これは。


「ああ」


 私がすごい勢いで考えを巡らせて、そのついでに視線までも巡らせているというのに、菅野は短くそう答えるだけ。

 何か理不尽なものを感じる。声もよくわからなかったし。ただ置鮎さんでは無いことはわかった。

 

 とにかく続きだ。


「それで私、たまたまそれを見て。ショッピングモールの本屋に行く用があったから。その時、小澤さんも居たでしょ」

「ああ。陽子がそういう風に言うから」


 この声は――ええい、あと回しだ。


「でも、その陽子ちゃんは来なかったんだよね? 熱が出たとかで」

「ああ、そういう連絡が来た」

「それで菅野君は陽子ちゃんに連絡とろうとか思わなかった? 心配とかあるものでしょ? 熱については後から知ったかもしれないけど、あの時点で待ち合わせの時間からは遅れていたわけだし。小澤さんは何もしない菅野くんが意外というか、ちょっとムカついてあなたを睨みそうになったって。そういう話なんだけど、思い当たる?」

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