オタクは論ず。されど進まず。

 とにかく判断材料は多い方が良いだろう、という事で「凄剣」を深夜アニメが終わる時間までかかって読み終えた後で、江上と加奈に連絡を取ってみた。

 そうすると、無理やり目を開けた頃には、二人からの返信が届いていた。……私が言うのもなんだけど、いつ寝てるんだろう?


 それから放課後になるまで、スマホで色んな会議が行われたわけだけど、放課後になって、いつものダベる状態に落ち着いた時に一番先に話題となったのは、これだ。


「そんなに似てるの? 戸松遥に」

「そうね。最初はとにかくそんな風に聞こえた」


 小澤さんの声についてだ。

 何しろ、目下うちの学校のヒロインではあるし、オタクとしては声の情報をインプットして解像度を上げたいと思うのは仕方のないところだろう。


「中島がそういうなら、戸松さんの声だったんだろう。だけど声がエクスカリバーっていうのは……戸松さんって、そこまで勝ちヒロインの印象はないな」


 江上には他に尋ねていることもあるんだけど、やっぱりこの問題からは逃げられない。

 だから私も真正面から言い返す。


「だから印象の問題だってば。ソードアート・オンラインとかホリミヤはやっぱり強いと思う」

「それを言うならVVVヴヴヴの……ああ、そうか。中島はロボアニメ見ないんだった。あ、それならさ。あの花はどうなるんだよ?」


 どこでロボアニメの話になって、どういう連想をしたのかわからないけど「あの花」が「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。」というアニメのことを指していることはわかる。


 「あの花」と戸松さんの話になるわけだから……。


「あなるは勝ったんじゃないの?」


 と、言い返してみた。

 ちなみに「あなる」というのは「あの花」において戸松さんが演じていたキャラ、安城鳴子のあだ名だ。


「それは中島……安易じゃない?」

「俺も森に賛成。何というか、そういうしがらみから解放された感が――」


 ところが二人掛かりで「あの花」における私の未来予想図はダメだしされてしまった。

 そこから二対一で激論が繰り広げられる。


 いつもの事、というか毎日の事であるので、そのまま夕方になるまで結論の出ない議論を……するわけにはいかなかったのだ。

 今日はちゃんと目的があるのだから。結論が出るかどうかはともかく。


 それで私は、そもそも、という大義名分を掲げて「あなる紛争」に終止符を打って、江上に「凄剣」について、何か知ってるんじゃないのかと? と強引に話題を変えた。


 この質問についてはスマホでのやり取りで、江上にはもう投げつけている。

 そうすると「しばらく時間をくれ」という返信が帰ってきたわけだけど――さて?

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