化けの皮がめくれ始める

 そして小澤さんが私の部屋にいる。

 しかし小洒落たテーブルなんかは私の部屋には無い。


 なので座布団を出して、小澤さんはそこに姿勢正しく座って。制服姿なので、学校帰りに直接来たようだ。

 さらに、お見舞い品なのか手土産なのかはわからないけど、私たちの間にはみたらし団子がある。


 多分これ、対おばあちゃん用だ。

 いったいどこまで私の個人情報が洩れているのか……。


 いや、その前に、そういった小細工をするほど何か狙いがあるということに……なるのか?


「あ、私たちはという事になってるから」


 私がこの状況に何とか理屈をつけようと首を捻っていると、小澤さんはいきなり切り込んできた。

 それに私が呆気に取られていると、小澤さんはすました顔でお茶を啜る。


「……嘘だ」


 と、私は目一杯低い声で凄んで見せた。私にはその気になれば、割と低い声を出すことが出来る。

 けれど小澤さんは平然としたままで、


「知ってる」


 と、言い放った。


 ……この女……正体は絶対優等生じゃないな。

 もしかして、受賞まで目立たなかったのは、周囲が見てみぬふりをしていただけなのでは?


「それでも大至急確認したいことがあってね」

「確認? 何を?」


 私は低くなったままの声で、何とか抵抗を試みた。

 無駄な抵抗だろうとわかっていても。


「それを説明するために順番に説明させてもらうわ。中島さんに任せていると、なかなか話が進まないし」


 しかも小澤さんに容赦がない。

 私が返事も出来ずに黙り込んでいると、どういうわけか今度は小澤さんの表情が一変した。なんだか焦っている?


 しかも身を乗り出してきた。


「――学校が変なの。どういうわけか、私と菅野君が付き合ってるなんてことになっているのよ」

「い……いや、それは……」


 ――実際“そう”なったんじゃないの?


 という言葉を私は何とか飲み込んだ。

 それを確認する勇気はなかったし、何より小澤さんの話は途中だった。


「それだけでも問題なのに、それにまとわりついている噂の方がもっと問題で、私が西村さんから菅野君を解放したとか――」


 何だそれは!?


 思わず顔を上げると、真正面に唇を噛んだ小澤さんの顔。

 怒っている。怒り狂っている、とまで言ってもいいかもしれない。


 じゃあ、本当に小澤さんと菅野は――。


「――要するにね! 私が菅野君を西村さんから略奪したとか、そんな噂が流れるのよ。完全に冤罪!」


 絶叫だった。


 そして自分の叫びで、小澤さんは少しは冷静になったのか。

 だんだんと声がクールダウンしてゆく。その分、凄味が増していったんだが。


 「世界でいちばん強くなりたい!」の時の戸松さんのように。

 そしてその声で、今度こそ私に向かってこう告げた。


「それで思い当たったの。――中島さんと初めて話した時の様子。その理由を」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る