事後従犯
驚くべきことに――なんて定型文を使うことになるとは思わなかった。
だけど、今ほどこの定型文が必要な時は無いだろう。
小澤さん、自分が注目を浴びているらしいことは流石に気付いていたみたいだけど、
――「菅野とお似合いだ」
なんて噂には全く気付いてなくて。
それについては次回作で菅野をモデルにするつもりだから、名前が聞こえた瞬間に思考が閉じこもった、なんて言い訳してる。
それを信じるなら、結構なポンコツ具合だと思うけど、小説家というものはそういうものかもしれない。
私はそういう風に納得することにした。自分自身が注目されてることには気付いているわけだから、もしかしたらそこから逃げる感じの心理状態であったのかもしれない。
そんな半端な状態だから、菅野と陽子ちゃんについては「あ、菅野君に仲が良い人がいるんだ。しかも女生徒。これは助かる」から始まったらしい。
それでしばらく情報を集めていくと――それが小澤さんと菅野の仲を疑わせたんだろう――「もしかしてサッカー部のマネージャーじゃないの?」というぐらい、サッカー部における陽子ちゃんの重要性に気付いた、と。
「そうなんだ」
そこまで聞いた私は、思わず声を出してしまった。
「そう。もしかしたら、菅野君のコンバートにも関わってるかもしれない――あ、コンバートって覚えてる?」
煽ってきた。
……この女……本性を隠すのをやめ始めたな。
「……覚えてるよ。今までのポジションが変更になることだよね」
「菅野君の場合は変更“になる”じゃなくて変更“する”だけどね」
すぐさま訂正――と言うか補足を入れられた。
なんだかんだで取材も進んでいるようだけど。そして小澤さんの説明は続く。
「だからこそ私は西村さんに仲介をお願いして、一緒に話を聞こうって思っただけなのに、なんでこんな噂になるのよ! そんな事、微塵も考えてないのに!」
と、ここで元に戻るわけか。
何だか色んなことに説明……ん? ちょっと待てよ?
小澤さんは、そういう状況で私を友達扱いして、個人情報が駄々洩れになるぐらいアレコレ聞き込みして、家にまでやって来て。
それって周りからからはどんな風に映るんだろう?
もしかして私も……私も陽子ちゃんを裏切ったように見られてる!?
私は再び顔を上げて、じっと小澤さんの顔を見つめた。
そして小澤さんは、それに動じることなく綺麗な顔を歪めてにやりと笑う。
こ、これは……確信犯だな!
私を巻き込むつもりなんだ。それにどんな意味があるのかはまだはっきりしないけど……。
「……小澤ぁ」
「はぁい♪」
「サムライフラメンコ」の真野まりを思わせる、狂気を思わせる弾んだ声と共に小澤は笑顔を浮かべた。
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