毒を食らわば

 かくして「小澤さん」は「小澤」と呼び捨てになったわけだが、もちろんそれだけで済む話じゃない。

 今までは気後れしていたけど、もうそんな遠慮をする相手では無いし、状況でもない。


「――サッカー部と会っていたでしょ。日曜日。駅前のショッピングモールで。最上階でフットサルは結局したの?」


 私は気になって仕方が無かったこと。

 あるいはこの問題の急所について直接問いただすことにした。


 そしてそれは小澤にとっても想定外であったみたいで、驚きの表情を浮かべて、


「な、何で知ってるの?」


 と、上ずった声を上げた。

 あ、少しだけ溜飲が下がった気がする。


「そんなの、あの場所にいたからに決まってる。言っておくけど、別にあとをつけてたんじゃなくて――」


 私はざっと、目撃するまでの過程を説明した。

 そしてそのまま、


「もしかしたら、っていうかほぼ確実に他にも、うちの生徒で見た奴がいると思う。この辺、日曜に遊ぶ場所が他にないからね」


 と、説明しながら思い付いたことを、そのまま口にする。

 そうだ。他に目撃者がいたと考える方が自然なんだ。だからこそ――


「それはわかったわ。確かに見られているかもね。西村さんが学校じゃなくて……ああ、そうか。西村さんは気を遣ってくれたんだ」


 そうか。やっぱり学外で小澤とサッカー部が会えるように段取りをつけたのは陽子ちゃんだったのね。

 それで、だからこそ――


「――それでフットサル場に陽子ちゃんは来たの? そこが問題なのよ」

「ええ? そこまで知ってるの? ……全然気づかなかった。で、何が問題って……」


 気持ちの良いことに、小澤の勢いが目減りしてゆく。

 気付いたらしい。あの状況では陽子ちゃんがいない間に、サッカー部、つまり菅野と内緒で会っていた風にしか見えないという事に。


 ……それが問題だとすぐにわかるって事は、やっぱり陽子ちゃんはあの場に来なかったんだな。


 まずはそれを確認しよう。

 必要なことでもあるし、何だろう。小澤を追い詰めるのが気持ち良くなってきた。


「そ、それが、西村さん急に熱を出したって連絡があって……」


 やっぱり陽子ちゃんは来る予定ではあったんだな。でも、菅野と小澤の噂を知ってるから、それがストレスになって……いや、そんな噂を後押しするように手伝ったのは……私か。

 

 小澤のやり方は悪辣そのものだったけど、それは時期を早めただけで、結局私は陽子ちゃんを裏切ってしまっていたのかもしれない。

 

 ――だからこそだ。


 今度は引き篭もって逃げたりはしない。

 まだまだ小澤に確認したいことはあるんだ。


 まずは、フットサル場で見せた、あの思わせぶりな見つめ合いについても問いたださなくては!

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