偶然のいたずら?

 ……なんて偉そうなことを言ったけれど、都市部から電車で引き返して、降りた駅のすぐそばにショッピングモールが隣接してるので、書店によるのはまさしく“ついで”に行えることが大きい。


 これが別の場所にある特殊な書店であれば、きっと私たちは現地解散になっていたに違いない。それぐらいの距離感だ。


 駅に着くと、結構周囲は暗くなっていた。

 夕食も一緒に、なんて付き合いでは無いことを感謝しながら、私たちはショッピングモール最上階の書店へと向かう。


 江上は「なぜ最上階なのか?」なんてことを考えていたけど、私はそこに決まりなんかあるのか? というのが正直なところだ。

 前に住んでいたところでは、ショッピングモールというか、百貨店も含めて書店は上にあったり下にあったり。


 要はどこでも良いのだろう。


 ただ、今回だけは……確かに偶然であることは間違いないんだけど。

 いや、この町の田舎さ加減が原因という事になるのかもしれない。


 ショッピングモールの最上階の半分ぐらいは屋根が無くて、運動場みたいになっているのよね。ナイターみたいな設備もあって、身体を動かすのが好きな人は、ここに来て何かしらスポーツをするみたいだ。


 確かに書店とは真逆の設備のようにも思えるけど、それはいまさら言っても仕方がない。

 ただ、この場にサッカー部が現れるとは……。


 サッカー部に気付いたのは江上だった。


「ん? あれ? あの集団、サッカー部じゃないか?」

「え?」


 と、江上の視線を追ってみるとトレーニングウェア姿の集団がいた。

 それは珍しくないんだけど……。


「あ! あれ菅野だよね」


 加奈の言う通り、その集団の中に菅野の姿、というか顔が混ざっている。確かにイケメンではあるんだよね。小澤さんと並んだ姿を想像すると……確かに絵になる気はする。遺憾ながら。


 そして菅野の存在に気づくと同時に、周囲の人たちも学校で見たことあるなぁ、と徐々に気付くことが出来た。


 スマホの画像がクリアになっていく感じに似ている。


「……何? 今日日曜で、多分練習はあったんだよね? 運動部ってそういうものだし。じゃあ、練習終わってまた何か運動しにきたの?」


 加奈が続いて、うへぇ~ とばかりに舌を出した。

 その気持ちは痛いほどわかる。やっぱり体育会の連中は違う星の住人に思える。


「あ~、多分あれじゃないか? フットサルできるみたいだし」


 江上もどこかげんなりしながら、ピクトグラム付きの案内板を指し示した。

 フットサル……確か小さいグラウンドでやるサッカーだったはず。


 つまりサッカー部は、昼間練習した後で、その後にまたサッカーをやりに来たって事か。……正直な感想を言うなら「バカじゃないだろうか?」になるな。

 でもボール持ってることにも気づいてしまったし、フットサルしに来たことは間違いないだろう。

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