手を離れたことに
こうして私は小澤さんの「お願い」を叶えることに成功した。
ほとんど何もしなかったけど、仲介っていうのは、そういう役割なのかもしれない。
だとすれば私に付きまとうこの後悔は、そもそも成功してしまった事が原因という事になるのだろう。
だけどそれとは反対に、小澤さんの「お願い」をかなえようとする陽子ちゃんは「さすが」という感じで、こっちも私は何にもしてないんだけど誇らしい気持ちになる。
やっぱり陽子ちゃんは、人と人とのつながりを大事に思う人だったと。
それが好きな男の子を巡るライバルになるかもしれない相手であっても、陽子ちゃんにとっては、大仰な言い方をすれば優先順位は「繋がり」を大事にすることが上なのだろう。
だからこそ、転校してきた私を加奈と江上に引き合わせたのだろうし。
どう考えても陽子ちゃんが私の世話を見なくちゃならない理由は無くて。そうする理由はきっと、陽子ちゃんの世話焼きの
そして私は陽子ちゃんのそういった性質を利用して、無理やり小澤さんと会わせてしまったんじゃないかって……多分これも、私が抱えることになった後悔の原因ではあるのだろう。
そしてそれは、何とかして飲み込んで私の中で折り合いをつけなければならない。
また陽子ちゃんに心配をけるようでは、さらに後悔が深くなるだけだから。
だからこそ気晴らし、というか、小澤さんのお願いに関してはもう私の手は離れて、くよくよ悩んでいても仕方がない、と切り替えるために――
「いい? 祈るのよ薫。新様のアクリルスタンドが当たるように。江上もだからね。涙様を引き当てるように祈って」
映画を見るために三人連れ立って、劇場のある都市部に乗り出してみた。
加奈の本命は映画そのものじゃなくて、映画館だけで売っている――か、映画館で買うのが一番便利――ファングッズを購入するのが目的だったみたいだけど、いつもの事だ。
下手に逆らわず「サー! イエッサー!」と唱えて、指示に従うだけでいいという状況はとにかく楽なので、私はむしろ積極的に参加した。
「SPY×FAMILY」劇場版も楽しみではあったし。種崎さんの声を聞き分ける事、というか判別することは、私にとって急務であることも確かだし。
そしてロイドは果たして美形なのだろうか? と、余計なことを考えつつ劇場を出ると、
「あ、新刊出てるな。帰りに本屋寄ってもいいか?」
と、江上が言い出した。
否も応もない。オタクが書店に誘われて行かないはずがないではないか。
最終的に電子書籍で買うとしても、やはり本屋という空間は何時だって魅力的なのだから。
私と加奈は同時に頷いて、これからの計画が決まった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます