少しの後悔を添えて
小澤さんはとにかく、ウチのサッカー部を題材にした新作の事しか頭にないみたいで、それは話を聞いていくうちにますます確信できた。
菅野について興味があるのは確かなんだけど、それはサッカー部との関係性であり、さらにはそれ以外の人たちとの関係性についても興味があるらしい。
つまりは陽子ちゃんもがっちり取材対象という事だ。
……やっぱり、何か企んでいる可能性はあるかも。
だけどそれ以上に疑いが濃くなったのは、やっぱり小澤さんは腐ってるんじゃないか疑惑。
私は趣味じゃないので、それほど多くは知らないけど、BL作品って普通に女性でてくるからな。その辺りは「登場キャラは女の子だけでいい」という層がかなりいる男どもよりは柔軟だと思う。
それが幼馴染みとなれば登場するのが自然だし。
それでいてサッカー部内部では、パートナーがフォークダンスのように入れ替わってゆくのだ。
いやいや「凄剣」の傾向を見る限り、一途なパターンかもしれない。
いやいやいや。小澤さんがBL作品を書こうとしてるというのは、ただの思い込みであって――という風に私が、オタク同士の会合に引きずられている間に、二人の話し合いは具体性を増していった。
「……それなら、増本君や加地君ともお話しできた方がいいのかもしれない」
「ぜひぜひ。いろんな人からお話聞いてみたいの。顧問の仲野先生に、監督とかコーチはいるんだっけ?」
「うん。監督は仲野先生がやってるけど、コーチは桑野さんがいるから……」
「ああ、でも、お話聞かせてもらっても、それが全部新作で使うことになるかはわからなくて。それを納得してくれる人じゃないと……」
「そっか。そのまんま書くんじゃないんだよね」
「そうね。基本的にフィクションにするつもりではあるけど、それでも知ってる人はモデルがわかるとは思うから」
「それじゃあ……」
なんだかすごく良い感じじゃないだろうか?
私が心配していたようなトラブルが起こるような気配はなく、事務的ではあるけれど、険悪という雰囲気でもない。
そして最後に小澤さんは――。
「だからお願い! 何とか私をサッカー部に紹介して欲しいの!」
と、両手を合わせて陽子ちゃんにお願いした。
小澤さんは多分知らないだろうけど、そういう風にお願いされてしまうと……。
「……うん。わかったよ。すぐには無理だけど、サッカー部の皆に話してみる」
陽子ちゃんはこう返事をするに決まっている。
その返事を聞いて、小澤さんは無邪気に喜んでいるけど、私は改めて複雑な気持ちになってしまった。
それは寂しさと、理由がよくわからない後悔で出来上がっているように感じられた……。
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