「対決」という言葉は似合わない
大体、私は物事を悪い方に考えすぎる癖がある。
「案ずるより産むが易し」なんてことわざもあるし、実際に陽子ちゃんと小澤さんが会ってみれば、何ということもなく丸く収まるものかもしれない。
……という言い訳。
あるいは、そういう気休め。
つまり私はそういうものが必要になる判断をしてしまったという事になる。
あとから考えると、陽子ちゃんに「小澤さんが会いたいと言ってる」と伝えるタイミングが卑怯過ぎたと、自己嫌悪に陥ってしまった。
何しろ陽子ちゃんは、様子のおかしい私を心配して会いに来てくれて、その時に私からお願いされて、それじゃあ断るなんてできるはずがない。
かといって、それを無しにするのは、ますます話が複雑になるし、それならせめてちゃんと段取りして、私も仲介者としてその場にいよう。
そう考えたのは……たぶん悪い考えでは無いはずだ。
そこで小澤さんの「お願い」を聞いたファーストフード店をもう一度利用することにして――学校でやるよりはマシなはずだ――時間は選択肢が無いので必然的に放課後。
私もその場にいることについては両方から積極的に賛同してもらったので、私の罪悪感は少し和らいだ。
その反面、その場にいたからと言って、いったい何ができるのだろう? と、始まる前から無力感に襲われることになってしまったのだけど。
三人で連れ立って店に到着し、今度は半分ソファーになっている四人掛けの席を選んだ。私と陽子ちゃんがソファー席に並んで座り、小澤さんがその正面に席に座る。
私は食欲がないのでコーラだけ注文したんだけど、二人もドリンクだけ。
……もしかして私は、最初からおかしな空気を作ってしまったのか? 今からでもパイぐらいは注文しに行った方が――
「西村さん。本当に不躾なお願いしてしまってごめんなさい。私とにかく、サッカー部のことを知りたくて」
小澤さんがいきなり始めてしまった。
といっても時候の挨拶から始めるのも変な話だし、他にやりようがない。
「う、うん。その辺りは薫ちゃんに聞いたよ。英治君のコンバートに興味があるって」
「そう。そうなのよ。やっぱり西村さん、サッカー詳しいのね」
「いや、そんなことは無いけど……まぁ、少しは詳しかもしれないけど」
おや?
何だかいい感じ……に思える。
私がいるから小澤さんが当り障りのない話を振っているようには見えず、菅野とのお付き合いを目論んで宣戦布告の文字を懐に隠しているようにも見えない。
今、私の前で行われているのは、スムーズで、建設的な会合。
それ以外には思えないのだ。
私はストローでコーラを吸い上げると、炭酸の刺激に縋りついた。
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