優しさに甘える
小澤さんがBL上級者かどうかなんて、本当にそこまで考える必要性は無いわけで。それなのに、私がおかしな迷宮に入り込んでしまったのは、確実にオタク趣味のせいだ。
……でも責任を加奈と江上に押し付けたくは無い。
では、オタク的な妄想はおいておいて。
確実な情報だけ確認すると――。
小澤さんはサッカー部、特に菅野について取材したい。理由は菅野がコン……とにかくポジション変更なったことに興味があり、それが次回作に繋がる。
うん、この辺りが確実なところだろう。
腐ってるかどうかは、あれだけ疑惑をこね回したのに確実ではない結果が導き出されただけで。本当にオタクの業の深さを感じる。
そして、確実さについては小澤さんについてだけでは無い。
陽子ちゃんについてだ。
小澤さんのお願いに嘘はない、という前提が必要だとしても、小澤さんの「お願い」の内容を知った陽子ちゃんは、きっとそれに協力するだろうって事だ。
理屈ではないけれど、これは確実だと私は思っている。
陽子ちゃんは、そうする人だ。
たとえそれが自分の意に添わなくても、陽子ちゃんはきっと小澤さんの「お願い」を聞いてしまう。
それなら私は……そういう危険な「お願い」は取り次がないことが正しいのでは? と思う。
けれど同時に、勝手な判断で陽子ちゃんに内緒にするのも――やっぱり違うとも思える。
どっちも間違っていて、故にどっちも正しい。
これでは答えがわからない。選べるはずがない。
結果私はしばらくの間、放課後にダベることも出来ずに、うんうんと唸ることしかできなくなった。
江上や加奈、それに小澤さんが訪ねてきたりもしてくれているようだけど、ちょっと相手をする余裕がない。
いや、周囲からはそういう風に見えるのだろう。
実際には話しかけられることもなく数日が過ぎ――
「――薫ちゃん!」
気付けば目の前に陽子ちゃんがいた。
「いったいどうしたの? みんな心配してるよ? 加奈ちゃんたちとも話してないって。悩み事があるのね。言ってみて。こういうのって一人で悩んじゃだめなんだから。さぁ、顔を上げて!」
そうだ。
陽子ちゃんは、そういう女の子だ。
誰かが悩んでいれば声を掛ける。落ち込んでいれば励ましてくれる。
陽子ちゃんは確かに落ち着きは無くて、子供っぽいかもしれないけれど、だからと言って
それなら――それなら、ちゃんと陽子ちゃんに伝えるべきなんだろう。
小澤さんは、別に危ない思惑があって陽子ちゃんに会いたいわけでは無い。
それならそれをそのまま伝えて、あとは陽子ちゃんの判断に任せるのが、友達としては正しい行いなんじゃないだろうか?
「……陽子ちゃん」
胸の内に溜まっていた滓を溢れさせるようにして、私はその名を呼んだ。
「ん? 何?」
そして陽子ちゃんは屈託なく答える――いつも通りに。
だからこそ私は甘えるように……。
「実はこんな話をがあって――」
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