スニーキングミッション

 もちろんサッカー部と私たちは縁が無い。

 つまり休日に偶然会ったからと言って、わざわざあいさつを交わす、なんてことは無い。


 私たちは「サッカー部発見」のイベントを終わらせて本命の書店へ向かおうとして――私だけは早足で書店の本棚に身を隠した。


「な、何だ?」

「ちょっと!」


 と、二人から声が上がるが、もちろんそれは無視。

 何しろ――


「早く隠れて! ああ、それは私だけでいいのかも……とにかく小澤さんがいるから!」


 私の声が届くと同時に、二人は揃って早足になって、私が隠れている本棚の後ろに身を潜めた。

 この店は、大きな店でよくある感じの壁が無い店だったので、身を隠しやすくて助かった。


 いや……そもそも隠れなくちゃならないのか?

 隠れて、どうしたいのか?


 なんてことも思ってしまうけど、隠れてしまった事は仕方がない。

 私は開き直って、サッカー部に近付いてゆく小澤さんの様子を窺ってみた。


 小澤さんは、白地に水色のストライプのワンピース姿。

 やっぱり凶悪に似合っている。抱えた大きなトートバックが不釣り合いだけど……これから取材という事なら、納得の装備だ。


 そうか……取材に……。


「え? まさか、本当にデキちゃったの? 菅野と小澤さん」


 私の気づきの反対を加奈が口にした、

 だからこそ私は反射的に、これは多分サッカー部の取材がこれから行われるんだろう、と反論する。そしてそのまま、


「多分これ、陽子ちゃんの段取りなんじゃないかな。学校で小澤さんがサッカー部に近付くと、色々騒がしくなりそうだし。それで学校の外で会うことにしたんだと思う」

「……なるほどな。フットサルができるって事はサッカーの技術的な部分も実際に確認できるだろうし」


 江上が私の推測に賛成してくれた。

 そうなのよね。きちんと取材できるように色々考えられてる。さすが陽子ちゃん。


「言われてみればデキてるって言うのは違う感じよね。何だか距離があるし、もしかして初顔合わせ? 同じ学校の生徒同士でそれもおかしいんだけど」


 加奈もまた、肩をすくめながら私に賛成してくれた。

 そして加奈の言うように、改めて様子を窺うと小澤さんとサッカー部はなんだかぎこちなく頭を下げあっている。


 確かに距離を感じる。

 陽子ちゃんと小澤さんを引き合わせたのが三日前で――うん、取材できる状況になったのは、加奈の言う通り今日が初めても不思議はない。


 ただそうなると……。


「なぁ、これ西村さん来ないのかな? どこかにいるか?」


 そうなのだ。

 陽子ちゃんがいない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る