具体的に先行きが曇る

 先行きは真っ暗だけど、それでも先に進むことは出来る。

 何しろ私はスタート地点にすら立っていないんだから。どういうことかと言うと――


「その小澤さんというのは、どんな感じの人なの?」


 と、皆に尋ねてしまうぐらい、この時の私は何も知らなかったわけで。


 すると、江上と加奈から驚きの目を向けられた。


「知らない、っていうかわからないのか!?」

「そんなのがテラ高にまだいたのね」

「大方、流行に乗らない、みたいな感じで厨二をこじらせてたんだろ」


 好き勝手言われてしまったが、実はその通りなので。

 意識的に知ることは無いように調整していた自覚はあります。


 けれど、それは今更文句を言われても仕方のない事だと皆もわかってくれたので、三人がかりで小澤さんのビジュアルを説明してくれた。


 まずロングヘアだと。最近はカチューシャを使っているらしい。

 想像を巡らせると、お嬢様という感じか。


 背も高めで、シュッとしていると。

 私ぐらいの背丈かと尋ねると、並べてみないとわからないけど、似たようなもんじゃないかということ。百七十近くあるのか。


 ……今まで目立たなかったと聞いているけど、それなら今まで学校に来てなかっとか? いや、大人しくしてれば目立たないものなのかもしれない。


 何しろ全然大人しくない陽子ちゃんは、小さいけれどきちんと目立っているからな。


 で、物腰も丁寧で何とか賞を受賞して天狗になったりもしていないようだ。

 普段は本を読んだりスマホに何かしら入力したりして過ごすことが多いらしい。


 これらの情報を総合してみると――


「うん……これはなかなか難しい話になってきたわね」


 と、私が曖昧な言葉で締めくくらねばならないほど、小澤さんという人はおおよそ陽子ちゃんとは真逆なキャラに思える。


 で、そういう感じが好みだと菅野は言っていると。

 いったいどこから手を付ければ……。


「いや待てよ。とにかく菅野の好みはわかってるわけだから、それは大きなアドバンテージだと考えることは出来る」


 そんな私の困惑に助け舟を出すように、江上がそんな風に主張してきた。

 しかも結構説得力があるように感じる。


「そ、そうだね! 確かにそれはそうか!」


 陽子ちゃんも乗り気なっている。

 そうなると続いてやるべきことは、陽子ちゃんに小澤さんの真似をするように勧めるってことになるのかな?


「とりあえず……まず廊下を走るのを我慢するのはどう? というか普通は走らないものだから。そういう『普通』を意識するのがまず第一歩ね」


 私と同じ結論に達したらしい加奈が、思い切った指示を陽子ちゃんに出す。

 途端に、絶望的な表情を浮かべて黙り込んでしまった陽子ちゃん。


 ……けれど例えば、こういう考え方はどうだろう?


 陽子ちゃんも、先行きの暗さを具体的に感じてくれたと。

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