カウンターを食らう

「それで、あなたはどうなの中島さん。腐ってるの?」


 「アホガール」笑いを収めながら、小澤が尋ねてきた。

 まぁ、これは仕方がないな。当然の流れだし。


 私は首を横に振って答える。


「用語を適当に知ってたり、それっぽい作品の雰囲気は察することは出来るとは思うけど、私自身にその趣味はないかな」

「そうなの? アニメファンオタクの女子って全員そういうものだと思ってたわ」

「その前提は間違っているって知ってるから、確認してきたんだろうに……」


 そういうと小澤は舌を出した。

 まったくナチュラルに嘘を混ぜてくる。だからこそ小説家なのかもしれないけど……。


 今度、加奈をきちんと紹介しようかとも思ったけど、こいつのために何かするのは想像するだけでイヤになったのでスルーしておく。


 けれどそれが隙になったのだろう。

 小澤がさらに踏み込んできた。


「そっちは趣味では無いとして、オタクであることは間違いないのよね? あなたはどういう趣味なの?」


 おい、小説家! 言ってることが矛盾してるぞ。

 ……とツッコミそうになったけど、意味は分かるな。腐女子でないなら、何を楽しみに、というか何を中心にしてアニメを楽しんでいるのかってことなんだろう。


 それに答えるのは簡単で、知られたからと言って何の問題もないはずなんだけど……あ、これはマズいかも。

 小澤は加奈と同じ腐女子なんだ。それも上級者の。


 小澤にしてみれば、話の流れで何となく聞いてみただけなんだろうけど、私が少し言い淀んだことで、何かを察してしまうかもしれない。


「……声優?」


 出し抜けに、小澤が言い当てた。

 そんな小澤の視線を探ってみると、本棚に収められていた雑誌の背表紙を目敏く見つけられてしまったようだ。


 いや、普段は買わないんだけどね。

 古本で見つけてしまったから買ってしまったのがあるのよ。


 石田彰さんが特集になっていて「昭和元禄落語心中」についてインタビューされてる号。元の家から何となく持ってきてしまった。


 そんな私の反応を見て、小澤は「はは~ん」という効果音が聞こえてきそうなほどそっくり返って、こう攻めてきた。


「へぇ、声優か。全然知らないけど、あれだ。ライブとか行くわけだ」

「い、いや、そういう事では無く……」

「うん。まぁ、そうでしょうね。それっぽいグッズが何もないし――じゃあどういうことなの? さっきは私を責めていい気分になってたんだから、それぐらいキリキリ吐け」


 しまった。

 調子に乗りすぎたか。


 でも、私の楽しみ方を説明するのって無理、か、凄く面倒なような。

 小澤に脅されて答えるのも癪に障るし……でも逃げられない気もするし……どうする?

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