ここから先は悪党の時間

 新しい作戦とは言ったけれど、別に目新しさは無いのよね。

 アニメでは結構見かける作戦のような気がする。


 いや、作戦とかではなく結果的にそうなってしまうというか。「とらドラ!」なんかが思い出されるな。


 ただその「結果的にそうなる」をわざと“そうなる”ようにしよう、と計画するのは「作戦」で間違いなくて、そんなことに手を染めるのはやっぱり悪党だと思う。


 だからこそ江上と加奈には遠慮してもらって、もはや手遅れの悪党を私の作戦に巻き込むことにした。


「ふぅん、あなたにしては良い作戦ね」


 と、とてつもなく上からそんなことを言うのは、改めて確認する必要もないほど小澤だった。

 こいつの煽りに対しては、もう慣れてしまったのかスルーできるようになってしまった事が悲しい。


 ただ今回は、一応の礼儀としておはぎなんかを買って、会議のあてにしているわけで、それを考えるとちゃんと腹が立つ。

 大丈夫。まだ、私はあんたを諦めないよ小澤。


 という事で、小澤は今、私の部屋にいる。

 おばあちゃんには「新しい友達」と誤解されているに違いないけど、そこれこそスルー推奨だ。


 で、私の考えた、というか思い付いた作戦というのは、


 ――「陽子ちゃんをモテモテにして、菅野にヤキモチを妬かせよう」


 作戦。これどうやったら納得の略称になるんだろう? とにかくそんな感じの作戦だ。

 どこにも目新しさは無いけれど、それだけ知れ渡っているってことは、それだけ有効だということで……というセリフを聞いた覚えがあるから、今回も有効だと信じたい。


 現に小澤からは反論は無いみたいだし。


「ただ、これはね――」


 前言撤回。反論はあるみたいだ。


「――そういう作戦だと理解して、お遊びに付き合ってくれるような人じゃないと、禍根を残すと思う。あ、この言葉の意味わかる?」


 わかるよ。

 アニメ見てれば、問題ない。


 私は小澤をスルーして話を先に進める。


「それはそうだけど、そこまでちゃんと考えないとダメかな? 今の学校なら、話に乗ってくれそうなお調子者が結構いる気がするけど」

「お調子者だから危険なのよ。あわよくば西村さんを、なんて考えちゃうようなのは問題外。何しろ西村さんは可愛いんだから、そのリスクは考えとかないと」


 たしかにそれはそうかも……確かに陽子ちゃんは可愛いし。


「それに菅野君に『もしかしたら』と思わせるような相手じゃないと、効果は無いと思うわ。だって菅野君だもの」


 理屈にはなっていないけど説得力はあるわな。

 だけど、それならどうすれば……?


 私がそうやって困っていると、小澤は嬉しそうに笑った。

 こういう時の小澤の声は、やっぱり悠木さんに似ている。


「――とりあえず、サッカー部も協力させましょう。心当たりがあるから」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る