マニアックな友人紹介

 東山奈央さんは声優である。


 色々な役の中の人を演じているけれど、今度の問題で例を挙げるべき作品は「やはり俺の青春ラブコメは間違っている。」「彼女、お借りします」「青春ブタ野郎シリーズ」なんかが良いだろう。


 最近では「ゆびさきと恋々」なんかもそうか。


 東山さんの演じるキャラの恋心は、とにかく実らない。あるいは実らないだろうなぁ、と予感させるキャラを担当することが多い。

 つまりはそういう「負けヒロイン」を思わせる声になってしまっているのだ。


 私はアニメ見てるだけで原作を追いかけることはほとんどないのだけど……ああ「落第騎士の英雄譚」とか「学戦都市アスタリスク」もそうだね。あれは妹だったはずだけど。

 ……本当に笑っちゃうほど多いな。


 東山さんは「勝ちヒロイン」――つまり最終的に恋心が実るタイプのヒロイン――の担当になることも、もちろんあるのだけど私の記憶では「ニセコイ」。それと確認はしてないけど「はたらく魔王さま!」でもそうではあるらしい。


 その東山さんの声と陽子ちゃんの声はそっくりなのである。

 しかも負けフラグを予感するときによく聞くような、少しばかり舌足らずなアクセント込みで。


 陽子ちゃんは小柄で、ふわふわの髪を短くして、それをキャラクターもののヘアピンでとめたりしてるから、そんな感じの声が似合うんだよなこれが。


 そんな陽子ちゃんを憐みの籠ったで見ているのは私だけじゃない。

 この場には私の他に、大きなくくりでは同じアニメファンの江上俊と森加奈がいるわけで、当然「負けヒロイン」という単語は履修済みだろう。


 東山さんの声にも……多分二人は私と同じような想いを抱いてるんだろうな。

 ただ加奈だけは、もう少し冷静だったみたい。陽子ちゃんにこんな風に声を掛ける。


「でも、どうして私たちに相談をするの?」


 と。


 確かに恋の相談なんてものをアニメファンオタクにしようなんてのもおかしな話だ。


 ちなみに加奈は根谷美智子さんが「モンキーターン」に出演されていた時の声によく似た声の持ち主だ。恰幅が良くて、押し出しが強い感じの。

 当然、加奈はそのキャラに外見もよく似ている。


 外見がよく似ていると言えば、江上もよく似ている。

 江上の声はトネケンこと利根健太朗さんの声によく似た低くて渋い声なんだけど、外見までもトネケンによく似ている。特に髪の毛の具合が。


 そんな江上もまた、加奈に言われて今の状態の不思議さに気付いたらしい。

 ちなみに私たちが放課後ダベっていた2-Dの教室は江上のクラスで、他にもダベっているグループがちらほらとあるにはある。


 陽子ちゃんの質問のおかしさに気付いたついでに、周囲の目も気になったのだろう。

 若干視線を泳がせながら江上がそれに続いた。


「そうだな。どうして俺たちに?」

「えっと、それは薫ちゃんに相談しようと思って」


 え? 私だけピンポイントなの?

 三人の視線が一斉に私に向けられた。そして加奈が私に告げる。


「……それじゃまぁ、とにかく薫も座りなよ。あんた背が高いから落ち着かないし」


 見捨てるムーブに入らないだけ感謝すべきなのかもしれない。

 私、中島薫。


 背が高いのっぽです。そして猫背気味。

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