声が負けヒロインフラグの幼馴染みが逆転勝利するまで

司弐紘

その声は負けフラグ

 関係ないところから話し始めるのもどうかと思うけど、まずはうちの学校――寺川高校なんだけど――に飛び込んできたニュースをざっと概略だけ。


 私と同じ二年の小澤某さんが何とかいう賞を貰ったという。

 何とかいう賞は、小澤さんが書いた小説が貰ったとの事。内容は幕末の頃の佐賀の剣士の話らしい。


 あやふやな説明だけど、これでも小説の内容知ってるだけマシな方だと自認している。

 うちの生徒は大体中身はわかってないだろうから。


 そして小澤さんは大変な美人であることがこの受賞をきっかけに露見してしまったので、小説の内容はあまり関係なく一気に校内のヒロインポジに収まった。


 ……では、まるっきり説明になっていない気もするけど、まぁ、そういう女生徒がいると理解して欲しい。


 小澤さんについては実のところあんまり重要ではないので、彼女の説明はこんなところで。


 で、ヒロインがいるならヒーローは? という考え方は自然なのかはわからないけど、ヒーローもいることはいる。

 サッカー部のエース、菅野英治がそうだ。彼も同じく二年生。


 彼については「小澤さんについて」よりは少しばかり詳しい。

 なんでも高校に入ってからポジションが変わって、それで上手くなって県代表に選ばれるまでになったと聞いている。


 ……ああ、つまり高校に入る前からサッカーやってたって事なのか。

 説明しようとしてみると、自分では気づかなかった部分に気付けるものだ。


 じゃあ私が改めて中学の頃の菅野を知りたいかと言われると、そんなことはないんだけど、もしかしたらこの先、知ることになるかもしれない。


 そう。お待たせしました。

 いよいよ私の話が具体的になってくる。


「だからね。英治くんがね、小澤さんとお似合いだって話になって」


 うん、それは何度も聞いた。

 ヒーローとヒロインを並べてみたいなんてことは、ままある欲求なんじゃないだろうか?


 言い忘れたけど、菅野はなかなかのハンサムだし、背も高い。

 小澤さんと並んでいる姿を想像すると、二人とも美男美女で「目の保養」なんて無責任な声が上がっているに違いない。


 それが菅野の幼馴染みである、西村陽子にとっては心配でたまらない。

 けれど具体的に何をすればいいのかわからないので、私たちに相談しに来ているというわけだ。


 相談というか愚痴をこぼしに来ただけのような気もするけど。


 ハンサムな幼馴染みのそばに突然現れた美女、しかも周りからの声が、それを祝福してるような状況が出来上がってしまっている。

 これは確かに陽子ちゃんにとっては、不利だとは思う。幼馴染みってこういう時、大体負けちゃうからね。


 しかもである。


 陽子ちゃんの声は東山奈央さんそっくりなのである。

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