陽子の右往左往

 改めて机を並べ替える――なんてことはしないんだけど。

 空いてる席にそれぞれが腰かけて、じっくりと陽子ちゃんの訴えを聞くモードに入っている。


 それは親切心とかでは無くて、単純に暇だったという理由が大きい。

 アニメファン、私たち三人は何となく集まって、目的も無しにダベっている毎日だから、陽子ちゃんの訴えそうだんにも好奇心が勝った部分があるのは間違いない。


 そこで陽子ちゃんが小澤さんの説明から始めて、改めて菅野が好きであり――これは説明不要なんだけど――今の状態が不安で仕方ないと。


 どうして英治君が小澤さんとくっつく話になるのかわからない。

 今の学校の雰囲気はおかしい! と、そこでまたループしそうになったので、強引に話に割り込んでみると、陽子ちゃんは出し抜けにこんなことを言い出した。


「ああ、えっとね。最初は生徒会に行ったのよ」

「は? なんで?」


 と、渋い声で反応出来た分、江上の動揺は少なかったのかもしれない。

 私と加奈なんて呆気にとられて声も出せないんだから。話が大きすぎない?


 そのまま陽子ちゃんが、その理由を説明するかと思ったけど、さらに陽子ちゃんの説明は右往左往する。

 セーラー服のリボンを引っ張りながら陽子ちゃんはさらにこう付け足してきたからだ。


「ああ、その前に神幸先生にも相談した」

「それはさらにわけがわからない」


 今度は何とかツッコむ私。

 神幸先生は美術担当で、あまり美術準備室から出てこない。ぼさぼさ頭で、声が杉田智和さんの先生だ。


 書道選択の江上は知らないようなので、私から説明する。

 陽子ちゃんは、時々神幸先生の面倒を見てる――購買でパンを買ってくるぐらいだけど――ので、一応縁があると言えなくもない。


 言えなくもないけど、流石に今回の相談に向いているとは思えない。

 そういう三人のオーラが漂ったみたいで。陽子ちゃんも頷きながらこう付け足した。


「私もわけがわからなかった」

「じゃあ、行かないでよ」

「だからそれはすぐに引き上げて、生徒会に行ったんだよ」


 ……筋が通っているようで、通ってない。

 そもそも生徒会を訪ねるのが謎なわけだし。


 で、その生徒会では相談というか確認しに行ったらしい。


「確認? 何を?」


 と、加奈が当たり前に確認すると、


「学校全体で英治君と小澤さんをくっつけようとしているのかって」

「いや、それはない」


 と、即座に加奈が訂正を入れたけど、うちの学校はアニメでよく見る感じの強権を持っている生徒会では無いし、私なんか誰が生徒会長なのかも覚えてないし目立たない生徒会だ。


 似た声の声優も思い当たらないほど、私の意識の向こう側にある。

 ただ陽子ちゃんの襲撃については同情を禁じ得ない。


「同じこと言われたよ。で、古尾君を探して――」


 その名前が出た途端、私たち三人は思わず瞑目した。

 何なら顔に縦線が入っていたかもしれない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る